女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。
加賀見先輩と会うのも花火大会の日以来。
あの日は花火が終わればすぐ帰ってしまったし、今日はゆっくり話す時間があるはず。
そう思ってほんの少しだけ軽くなった足で、私は一学期と同じように電車に乗り、星彩学園の最寄り駅で降りる。
最寄りといっても学校までニ十分ほどかかる。この学園の皆さんは送迎組がほとんどだからそう困ることはないようだけど。
だから、改札を出たところの広場にあるベンチに星彩学園の制服を着た男子が座っているのを見て、珍しいなと思った。
少しカールしたアッシュグレーの髪と猫目が印象的な美形。
特待生なら三学年の全員が集まる交流会で顔は覚えているはずだから、見覚えがないということはどこかのお坊ちゃんということで間違いない。あとクラスメイトでもない。
高等部の生徒全員を把握している加賀見先輩ならすぐに名前がわかるんだろうけど、私にわかるのはせいぜいこの程度。
不意に、その男子が顔を上げた。
じろじろ見過ぎたかもしれない。私は慌てて顔を背ける。
……と、次の瞬間驚くべきことが起こった。