女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。
「瀬那! やっと見つけた!」
「え?」
クールな印象だった彼はその表情をくしゃりと崩し、満面の笑みで私の名前を呼んだ。
もう一度言う。この男子生徒に見覚えはない。本当に。
それなのに相手は駆け足でこちらへ近づいて、ぎゅっと私を抱きしめる。
突然の出来事に身動きが取れない。
通勤通学の時間帯で人通りの多い中、通り過ぎる人たちの視線が刺さる。
「ちょ、ちょっと待って離して! 誰かと間違えてませんか?」
「オレが瀬那のことを間違えるわけないじゃん。ああ、やっと会えた」
「いやでも私は貴方のこと知りませんが!?」
「悲しいなあ。実際に会うのは十年ぶりかもしれないけど、つい三年前ぐらいまで文通してたでしょ?」
「文通……?」
心当たりがあった。
それは十年ほど前のこと。
家族旅行へ行った先で偶然知り合い、仲良くなった男の子がいた。