女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。
「ねえ累くん」
「ん?」
「近くない?」
「普通だよ」
いや絶対に近い。
累くんは、常に肩がぶつかりそうなぐらい近距離感にいる。
アメリカ的距離感なのかと思ってこっそりネットで調べたけど、向こうはむしろ日本よりパーソナルスペースは広めらしい。
つまり単に累くんのパーソナルスペースが狭いだけなのか。
自然に肩を抱き寄せてきたりもするし、半日の授業が終わる頃には何かもう慣れてしまったけれど。
「……で、誰なんだ?」
放課後になってやってきた、お久しぶりの旧視聴覚室。
教室に入ってきた加賀見先輩は、私の隣に座る累くんを見て当然怪訝そうな顔をした。
「どうもこんにちは。瀬那と将来を誓い合った幼馴染み、岸井累です」
「将来を誓い合った幼馴染み……!?」
「違います。新しいクラスメイトで、ペンフレンドってやつです。撒いたつもりだったんですけど、また見つかっちゃって」