女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。
累くんとあれこれ言い争いつつ、こちらの声も聞いていたらしい。
「何でって……今日の午前中に川咲嬢を見かけたとき、見慣れない男子が付きまとってたから……これは修羅場が見られるぞと期待して☆」
「意味がわからん」
「岸井くん。僕は天ヶ瀬って言います。で、こいつは加賀見。まあ気が向いたら覚えてあげて」
「ああ、天ヶ瀬さんのことはもちろん存じ上げています」
「お、本当? やったね」
自由な天ヶ瀬先輩が自由に自己紹介を始めると、累くんもこちらには愛想よく答える。
加賀見先輩へのとげとげしい態度が嘘みたいだ。
二人はそのまま和やかに雑談を続けている。
二人が話を続ける中、ちらりと加賀見先輩の表情を窺うと、何やら思いつめたような表情をしているのがわかった。
「先輩、ちょっと廊下に出ませんか」
累くんに気付かれないよう、私は加賀見先輩にこっそり声をかける。