女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。
私の提案に、加賀見先輩は静かにうなずく。
そして部屋から出た瞬間盛大にため息をついた。
「岸井累のことは少し苦手かもしれない。天ヶ瀬が相手してくれて助かった」
「苦手ですか? でも累くんは男ですよ」
「わかってる、女性に対する苦手とは違うベクトルの苦手だ」
「冗談です。何故か加賀見先輩にすごい突っかかってきましたもんね。何が気に入らないんだろう。注意しておきますね」
「いや、あいつが突っかかってくる原因は間違いなく……」
先輩は何かを言いかけたけど、結局そのまま口をつぐんでしまう。
その代わりに、私から少し目を逸らしながらこんなことを言った。
「あいつとは、下の名前で呼び合うんだな」
「え? ……ああ、そうですね」
子どもの頃一緒に遊んだ名残だ。
手紙の中でも当たり前のように呼び合っていたから、当然のように累くんと呼んでいた。