女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。




「……もう一回」




まさかのおかわりを要求された。




「え……律弥先輩?」


「もう一回」


「律弥先輩」


「もう一回」


「律弥先輩」


「もういっ……」


「そろそろしつこいですよ加賀見先輩」




でもってそんなわかりやすくシュンとしなくても。もう十分だったでしょ。

だけどまさか、下の名前を呼ぶだけでこんなにご機嫌をとれるとは思わなかった。今後も活用していきたいところ。




「それはそうと、あの教室のことが累くんに知られてしまった以上、一学期と同じように練習をするのは難しいでしょうか」




私はまだシュンとしたままの加賀見先輩に尋ねる。

先輩の女性恐怖症は極秘事項だ。これまで通りというわけにはいかないだろう。




「ああ、そのことだが……どちらにせよ、今日から練習は中止しようと思っていたんだ」


「へ、中止……?」




予想外の言葉に面食らう。

場所を変えようとかそういう話になると思っていたのに。




< 118 / 167 >

この作品をシェア

pagetop