女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。
「……もう一回」
まさかのおかわりを要求された。
「え……律弥先輩?」
「もう一回」
「律弥先輩」
「もう一回」
「律弥先輩」
「もういっ……」
「そろそろしつこいですよ加賀見先輩」
でもってそんなわかりやすくシュンとしなくても。もう十分だったでしょ。
だけどまさか、下の名前を呼ぶだけでこんなにご機嫌をとれるとは思わなかった。今後も活用していきたいところ。
「それはそうと、あの教室のことが累くんに知られてしまった以上、一学期と同じように練習をするのは難しいでしょうか」
私はまだシュンとしたままの加賀見先輩に尋ねる。
先輩の女性恐怖症は極秘事項だ。これまで通りというわけにはいかないだろう。
「ああ、そのことだが……どちらにせよ、今日から練習は中止しようと思っていたんだ」
「へ、中止……?」
予想外の言葉に面食らう。
場所を変えようとかそういう話になると思っていたのに。