女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。
口を開くたびに言い訳がましい言葉が出てくる。私はいったい何をそんな慌てているのだろう。
そして先輩は、どうして私が慌てれば慌てるほどに嬉しそうな表情をするのだろう。口角がだいぶ上がっている。気がする。
整った顔に浮かぶそんな表情に、私は思わずぼうっと見惚れてしまう。
「瀬那。勝手にいなくなるなんて酷いじゃないか」
……見惚れていた時間は、およそ二秒で終了した。
私たちがこっそり部屋を出たことに気付いた累くんが、張り付けたような笑顔でこちらへやってきた。
そして、腕を組んで加賀見先輩の前に立った。
「オレの瀬那を一人占めなんてさせませんよ、先輩」
「川咲はお前のものじゃない」
ため息交じりにそう言う加賀見先輩は、またちょっと疲れたような、不機嫌なような色をにじませた。
そして。
「おー、盛り上がってんな。他人事の修羅場って超楽しいよね」
遅れてこちらに来た天ヶ瀬先輩は、バチバチしている二人を見て本気で楽しそうにしていた。