女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。




開始直前に司会者が言っていた言葉が蘇る。

婚約者同士の二人。

それは、加賀見先輩と、このミツキさんのことを指している可能性だってある。


そのことに気が付いた瞬間。


──胸が、鷲掴みされたのかと思うぐらい苦しくなった。




「うそ……やだ……」




ほとんど無意識に漏らした声を聞いて、詩織ちゃんは私の顔をのぞきこむ。

そして、心配そうに言った。





「どうしたの瀬那ちゃん? 大丈夫? 顔色酷いよ?」


「大丈夫。ごめん、急用思い出したから帰るね。詩織ちゃんはこのまま楽しんで」




私はそう言って、一人そそくさと楽しげな空間から逃げ出した



笑顔、引きつってたかな。

詩織ちゃん、せっかく時間をつくってくれたのに……良い気分しないよね。ごめんね。



ああ、嫌だな。こんなことで。




こんなことで、自分の気持ちに気付くなんて──。



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