女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。
「あれ、もしかしてそこにいるのは川咲嬢?」
「……あ、天ヶ瀬先輩」
独特な呼び方で私に声を掛けてきたのは、加賀見先輩の友人である童話の王子様系容姿の先輩。
彼は、普段より人が少ないカフェテリアで一人悠々とコーヒーを飲んでいた。
「川咲嬢は一人?」
「はい。昼からは累くんと回る約束なんですけど、時間まで暇なので適当に歩いてます」
「へえ、岸井累くんとね。加賀見のやつ、これはまた妬くぞ……」
天ヶ瀬先輩は何やら愉快そうに笑って、コーヒーカップをテーブルに置く。
それから、良いことを思いついたというように手を叩く。
「川咲嬢、暇ならこっちおいでよ。何かおごるよ」
「良いんですか」
わーい、ラッキー。
普段はカースト上位の皆様でいっぱいのカフェテリア。何だかんだあまり入ったことがない。
私は天ヶ瀬先輩の向かいに座り、お言葉に甘えてカフェオレとプリンを注文した。