女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。
大好きな人と、心の底から気に入らない人のこと。


゜《side岸井累》



オレが瀬那と出会ったのは10年ほど前のことだ。


場所は忘れたけれど、どこか地方に行っていて──確か、父親の仕事に姉と一緒に同行させられていたのだったと思う。


父が仕事をしている間、せっかくだからと父の会社の人間が付き添って近くを観光することになったのだが、幼いオレはそこで見事に迷子になった。


一人で途方に暮れていたとき、話しかけてきてくれた同い年ぐらいの女の子がいた。それが瀬那だ。




『ねえねえ、お家の人見つかるまで一緒に遊ぼうよ!』




聞けば、彼女もまた家族で旅行に来ていたのだという。

きっと「旅先で偶然知り合った同い年の子」というのが特別感があって嬉しかったのだろう。


何だかんだあって無事保護者と合流した後も、瀬那はオレと一緒に過ごしたがった。


明るく子どもらしいながらもどこか達観しているようでもあった瀬那。


せっかくの予定が狂ってしまい困った顔をする彼女の両親には幼いながらに罪悪感を抱きはしたが、オレも彼女と過ごす時間が楽しくて仕方なかった。


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