女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。
……高所恐怖症とか暗所恐怖症とかいう人には会ったことがあるけれど、女性恐怖症というのは初めて会ったな。
「普段なら、今の川咲との距離感で女子と話すと、だいたい10分が限界だ」
「限界、というと?」
「それ以上になると、意識が朦朧としはじめて、倒れる」
「じゃあもしかして、今日あそこで倒れてたのって」
「……今日はクラスの女子にちょっと捕まってな。同級生たちの前で倒れるわけにはいかないから、朦朧としたままどうにか人気のない場所までは移動したんだが」
その結果、あんな人通りの少ない茂みの陰で倒れていた、と。
「へ、へぇ……」
時間が経てば自然と目が覚めるから平気なのだと言うけれど、それ季節によっては別の理由で体調崩しますよね?
それから私ははたと気付いた。
「待って。先輩、今私と話し始めて何分ですか? また倒れたら大変……!」
あ、でもまあ、ここ保健室だし。倒れても先生に見てもらえるから平気っちゃ平気か。
いや、でも自分から気絶しにいくというのも意味がわからない。