女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。
適当にそんなことを言ってみると、先輩はゆっくり首を振った。
「いや、それは根本的な解決にならないだろ」
「まあそうですね」
「俺はちゃんとこの厄介な症状を克服したいんだ。このままでは今後どれだけ苦労することになるか……想像するだけで吐きそうになる」
「じゃあ想像しないでください」
目の前で吐かれたくはない。
私の冷たい視線に気付いていないのか気にしていないのか、加賀見先輩は真剣な表情を崩さない。
崩さないまま、さらなる爆弾を放った。
「女性恐怖症を克服するために……川咲には、俺の恋人になってもらいたい」
「…………………………は?」
自分のその声は、普段の声より2オクターブほど低いように思った。
私こんな声出るんだ。自分に新たな可能性を感じてしまうな。
声の幅が広いと歌える曲が増えそうじゃない?
今度カラオケに行ったら、いつもは歌わない男性アーティストの曲に挑戦してみようかな。