女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。
これまで、勉強ばかりで恋愛とは無縁の生活をしてきた。
さすがに始めて付き合うのがこんな理由っていうのはちょっと……。
「わかった。じゃあ、川咲とは今日から友達だな」
加賀見先輩は嬉しそうに笑ってそう言った。
ぐぬぬ……破壊力すごいなイケメンの笑顔。
「それはそうと先輩。さっき『それなりにお礼はさせてもらう』って言ってましたね」
「言った。自慢ではないが、ある程度の額は払えると思う」
「いえ、別にお金はいらないんですけど」
お礼って、まさかの現金払いを想定してたのか。
まあお金はいつだって魅力的だけど、今の私には現金より切実に欲しいものがあるのだ。
「加賀見先輩の権限で、高等部の校舎のどこか一室を貸し切ってもらえませんか。放課後だけでいいので」
「……どういうことだ?」
「自習できる場所が欲しくて。この学校、図書館も自習室も、私みたいな庶民は肩身が狭くてまともに使えないんですよ」