女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。
「……」
「……」
お互い無言になって、二人しかいない旧視聴覚室に静かな時間が流れる。
正直、この御曹司様相手に何を話せば良いのかわからない。
「……学校には慣れたか?」
気まずく思っていたのは向こうも同じだったらしい。
先輩は私に無難な質問を投げかけてくる。
「ぼちぼち、ですかね」
「そうか。気の合う友人はまだいないのか?」
「なかなか難しいですねぇ」
このやり取り、この1週間毎日してる気がするな。
昨日いなかった友人が今日になって突然生えてくるわけもなかろう。
「……先輩、何か他に面白い話はないんですか?」
「面白い話……? そうだな、古典の担当教師の髪は本物か否かという話とか……面白いか?」
「え、石田先生ですか? ……カツラなんですかあのふさふさの白髪」
「俺はまずカツラで間違いないと思っている。だが友人は植毛説を推していた」