女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。
おお、想像していたのと別ベクトルの面白い話が飛び出してきたな。
というか、御曹司様との話のネタこんなので良かったんだ。もっと高尚な雑談をなさるものかと思っていた。
「なあ、川咲」
その後も無言になったり、無難な(馬鹿馬鹿しい)会話をしたりを繰り返してしばらく経った頃。加賀見先輩は真剣な声で私を呼んだ。
……あ、そろそろか。
もう一週間経つので声の調子だけで察せる。
「悪い、限界だ」
「はーい」
私はぱっと手を離して、時計を確認する。
「今日は十五分ですか。良かったですね、昨日から三分も伸びました」
ちなみに、手を繋ぐのに初めて挑戦した日の記録は五分だった。
その後、八分、十分、十一分、十二分……と順調に記録を伸ばしてきているところ。
顔を青白くした先輩は、どうみてもブランド物の高そうなハンカチで汗をぬぐったり、お茶を飲んだりして、必死に平静を取り戻そうとしている。