女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。
そんな風に呆れていた私の眼前に、ぐいっと白いふわふわとしたうさぎの顔が迫ってきた。
「うおっ」
「これ、もらってくれないか?」
恐らく最初に取ったであろう、ぴょん吉郎の大きめなぬいぐるみ。
「え」
「いらなかったか?」
「いえ、嬉しいですけど……良いんですか? せっかく取ったのに」
「初めから川咲に渡したくて取ったんだ。だからもらってくれないと……ちょっと困るな」
「そ、そういうことでしたら……ありがとうございます……」
私はそっとぬいぐるみを受け取る。
ふわりとした手触りが気持ちよくて、思わずぎゅっと抱きしめる。
「可愛い。大事にしますね」
「……」
「先輩? どうかしましたか?」
気が付くと、加賀見先輩は私に目を向けたまま固まっていた。
しかも何故か胸の辺りを押さえている。
「いや少し……心拍数がおかしいような……」
「は? 心拍数……ちょと、まさかそれって……」
「……?」