女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。
間接キス未遂の怨み。






デジャヴ。これまでにどこかで経験したことがあるように感じること。既視感ともいう。

私はこの日、まさにそれを味わった。




「そういうわけで、あの先生の頭頂部は絶対にカツラだって確信したんだけど……」


「ふふ、本当に?」




隣のクラスとの合同授業が終わり、それぞれの教室へ帰る途中。

詩織ちゃんと楽しくおしゃべりしながら歩いていた私は、中庭の隅にある木の陰にそれを見つけた。



ぽつんと落ちている黒い靴。



だけどそれは一部に過ぎなくて、よく見るとそこからすーっと足が伸びているのが遠目にもわかる。




「うわっ」


「どうしたの瀬那ちゃん?」


「な、何でもない! ごめん詩織ちゃん、先行ってて!」


「……? うん、わかった」


「じゃあまた!」




それの存在が詩織ちゃんの目に入ってしまう前に、私はそう言ってひらひら手を振る。

その後ろ姿が小さくなるのをしっかり見届けてから、大きくため息をついた。


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