女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。



加賀見先輩は、ぽつりぽつりと今回倒れる原因となった出来事を語りだす。


さわさわと風に揺れる木の葉に虚ろな目を向け、張りのない表情だ。




「書類のせいで足元が見えなくて、何かにつまずいたんだろうな。そのクラス委員の女子が、転んで書類をぶちまけたんだ」


「それは災難な」



思わず顔も名前も知らないクラス委員さんに同情してしまった。

私もやらかした経験があるからわかる。あれ周りからの視線が恥ずかしすぎるんだよね。




「書類を拾うのを手伝って渡すまでは良かったんだ……そのあとうっかり、立ち上がれるよう手を差し出してしまって……」


「え」


「そうしたら当然その手を取られるだろう?」


「そりゃそうですよ」


「触れられた瞬間、一気に血が下がるようなぞわっとした嫌な感じがして……これはいつもの発作だと直感してここまで逃げてきたわけだ。ここなら人目につかないと安心したら、一気に意識が遠のいて……」


「なるほどよくわかりました。……そのクラス委員の人、めっちゃびっくりしてると思うので後で絶対フォロー入れておいてくださいね?」




麗しき御曹司が親切に手を引いてくれたと思ったら、次の瞬間にはあらぬ方向に走り出した……戸惑いしかなかっただろうな。




< 73 / 167 >

この作品をシェア

pagetop