女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。




「川咲と練習を始めてそこそこ経つし……他の女子でも、多少触れるぐらいは平気になったんじゃないかと思ったんだがな……」




先輩は大きく息を吐いてうつむいた。


まあ、私相手だともう全然平気そうだもんなあ。




「先輩がやろうとしてる暴露療法っていうのは、恐怖の程度の低いものから徐々に慣らしていく治療法なんですよね。そろそろ私以外の人と練習してみるとか……」




とりあえずそう提案してみる。


だけど、提案したその瞬間、胸のあたりに何だかもやっとしたものが広がった。

……何だこれ。


そんな私の個人的困惑をよそに、加賀見先輩はゆっくりと首を振って言う。




「こんな事情、そう何人もの人間に話せると思うか?」


「……」



まあ、無理か。


加賀見先輩は、この学校にいる人たちと将来何十年にもわたって交流が続いていく。

女性が怖い、なんていうマイナスなイメージをつけるのは避けたいところだろう。




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