女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。
先輩は額に手を当てつつ目を閉じて、完全に眠るモードに入っている。
慣れない温もりと重みで完全にパニックになった私は、心臓が早鐘を打つのを感じながら裏返った声で言う。
「いっ、いくら私が怖くない貴重な女子だといっても、膝枕は……さすがに気持ちが休まらないのでは……」
「そんなことはない」
「嘘だ。絶対ペットボトルの仕返しですよね。謝りますから!」
「それもある。だけどそれだけじゃない。最近気付いたんだが……」
加賀見先輩はゆっくり目を開けて私を見た。
涼しげな三白眼にじっと見つめられ、思わず息を飲む。
「女子なのに、何故か川咲にだけは触れてみたいとさえ思う。不思議だ」
「──え?」
「……」
どういう意味ですか?
聞き返してみたものの、先輩は何も答えずまた静かに目を閉じる。
さらに、私が動こうにも動けないでいる間に気持ちよさそうな寝息をたてはじめていて。
「えぇ……」
ああ、今日は暑いなあ。夏休みも近いもんなあ。
そんな風に現実逃避を始めた私は、その後一時間ほど解放されることはなかった。