女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。
喉の奥でうぐっと変な音が鳴る。
俺はさらなる否定の言葉を考え……諦めた。
「……川咲には黙っておいてくれ」
「おいおい、僕から言うわけないだろ。というか自分で言えよ」
「言えるわけがない」
「は? 何で?」
「『初めて出会った怖くない女子だから好きになってしまいました』だなんて、我ながら簡単すぎるだろ……」
俺は天井を見上げ自嘲気味に笑う。
出会ってすぐの頃は、何故か恐怖を覚えない貴重な女子だとしか思っていなかった。
だけど最近は、一緒にいるのが心地いいのに、同時にどこかそわそわしたり。
ふとしたときに見せる笑顔がものすごく可愛く見えたり……。
ずっと触れていたいと思ったり。
経験がなさすぎて最初こそわからなかった。
でも、何度も繰り返されれば嫌でも気が付くものだ。
「いやそれ、何も引け目に感じる部分無くない? お前にとって、唯一恐怖を感じない女子である川咲嬢は特別なんでしょ? 自分にとって特別な人に恋愛感情を抱いてしまうのはむしろ自然」