女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。
「そうなのだろうか……」
「うん。問題なのはお前がヘタレだってところだけ」
「なっ」
普段穏やかな友人から言われた、想像以上に棘のある言葉に少し怯む。
「もっとはっきり、『夏休みも会いたいです』って言わなきゃダメだったと思うな。川咲嬢は鈍感系女子らしいから、あれだと、『ついでに呼んでもらえたのかな、ラッキー』ぐらいの認識かも」
「ぐっ……」
「もう一つ言うと、お前はちょっと上目遣いされたぐらいで動揺しすぎ」
「あ、あれは仕方ない」
『絶対に行きます!』と手を挙げながら目をキラキラさせていたときの川咲。だってあれはものすごく可愛かった。
あのまま直視していたら絶対に表情が緩んで大変なことになっていたから、どうにか逸らして横目で見る程度に抑えたのだ。
天ヶ瀬はもう一度大きくため息をついて、まっすぐこちらに目を向けた。