女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。
表では笑顔で取り繕いながら裏では足を引っ張り合う……そんな世界の大人たちを見て育ってきた子どもばかりが通うこの学校で、天ヶ瀬のような良い友人に出会えたことは幸運と言うほかない。
俺はぎゅっと右の拳を握りしめ、天ヶ瀬への感謝を口にした。
「……ありがとう、天ヶ瀬」
「ううん。自分が恋愛で失敗してきた方だから、加賀見には変に拗らせてほしくないと思っただけ」
女性恐怖症だと言っておきながらこんな感情を抱いていると知られたらどう思われるだろう……という不安とか。
女性に慣れる練習という理由で触れ合うことの罪悪感とか。
そんなことはもういい。
天ヶ瀬の言う通り、このことに関しては真面目に考えすぎないことも大事なのだろう。
「取られるのは、嫌だもんな」
自分がこれからどうしたいか。
その形が、少しだけわかった気がした。