離婚まで30日、冷徹御曹司は昂る愛を解き放つ
「……なんか、詳しいね?」
「アストで働いている友人がいるんです。アストの社内でも、主に女子から、芦沢専務はすごい人気があるらしくて。友人も一度近くで見てまじで格好よかったって言うから、どんだけのイケメンなのか気になるじゃないですか」
「へ、へえ~……なんかすごいね。アイドルみたい」
「芦沢専務」の人気者エピソードに圧倒されつつも、正直に「興味がない」とも言えず、果菜はとりあえず調子だけあわせた。
すると、舞花はそんな果菜の内心を見抜いたように、「もう」と唇を尖らせた。
「果菜さん関心なさすぎ。でも果菜さんぐらい興味ない人の方がきっと案内役に向いてましたね。さっきも言った通り、容姿で注目されるのが芦沢専務はすごく嫌いで、ちょっとでも女子が近付こうとするとばっさりいくらしいんですよ」
「あ、そうなんだ。確かに近寄りがたい雰囲気がすごかった気がする。気軽に話し掛けられないみたいな」
思い出してうんうんと頷くと、舞花は「やっぱりそうなんですね」と言いながら、更に声のトーンを落とした。
「知ってます? 前に秘書課にいた前沢さん、芦沢専務のイケメンぶりにやられちゃってお近づきになろうとして怒らせちゃったらしいんですよ。何でも自分の連絡先渡そうとしたって」
「え……本当に?」
舞花の話に果菜は驚いて目を瞬いた。「前沢さん」を思い出してみると、確かに美人で容姿に自信がありそうなタイプではあった。それにしたって相手は取引先の会社のしかも役員で、おいそれと近づけない雰囲気まで纏っている。
例え好きになってしまったとしても、普通に考えたら自重するだろう。そのハードルを乗り越えたというのだから、信じられないと思ったのだ。
「本当ですよ。それで芦沢専務からクレームがきて、慌てて異動させたって話です」
「……そんな事情が。よく知ってるね」
確かに前沢は変な時期の異動で、果菜もおかしいなと思ったのでよく覚えていた。しかし、異動の理由まではもちろん知らない。情報通な舞花に思わず、感心の目を向けた。
「独自のネットワークがあるんで」
得意げな笑みを見せた舞花であったが、すぐにその表情を引っこめると意味ありげな顔で言葉を続けた。
「まあこれはうちの会社が配慮したんでしょうけど、自社でもそんな感じで煩わしい存在はばっさり排除しちゃうらしいんですよ。仕事でもとんでもなく頭が切れて意思決定のスピード感もすごいらしくて、しかもそれが的確で大体はずれなしなものだからマシーンとも呼ばれているらしいですよ」
「マシーン……」
「感情がないって意味もこめられてるらしいんです。ほとんど笑ったりもしないって」
果菜の呟きを聞いて付け加えるように言うと、舞花は肩を竦めた。
「やっぱり果菜さんが案内役で正解でしたね。私なんか、危なっかしくて任せられないでしょうし。でもどこまでのイケメンなのか見たかったなあ。ああ~気になる」
舞花が隣で何やら話していたが、果菜は別のことに意識をもっていかれていた。
(確か、前沢さんってコネ入社の人じゃなかったっけ。うちの役員の関係者だよね。だから秘書課にいたんだろうけど、秘書課って情報流失とかに厳しいし、コンプライアンスの意識が低い人がいると色々と問題があるんじゃ……そのあたりまで見越してクレーム入れたとしたら、確かに切れ者かも)
そんなにすごい人だったのか……と感心していると、横から舞花がつんつんと果菜の腕を突くように指先で触れた。
「果菜さんなんかマイワールド入っちゃってません? 私の話聞いてます?」
「え? ああ、ごめん。やだ、もうこんな時間? そろそろ仕事に戻らないと。世間話はここまで」
そこで果菜は今気付いたという風にわざとらしく時計を見て会話を打ち切った。
元はと言えば自分が話にのらなければよかった話だが、つい興味を惹かれてしまったことを反省しつつ、「はあい」と返事した舞花に微笑むと、果菜は仕事に戻るべくマウスを動かした。
「アストで働いている友人がいるんです。アストの社内でも、主に女子から、芦沢専務はすごい人気があるらしくて。友人も一度近くで見てまじで格好よかったって言うから、どんだけのイケメンなのか気になるじゃないですか」
「へ、へえ~……なんかすごいね。アイドルみたい」
「芦沢専務」の人気者エピソードに圧倒されつつも、正直に「興味がない」とも言えず、果菜はとりあえず調子だけあわせた。
すると、舞花はそんな果菜の内心を見抜いたように、「もう」と唇を尖らせた。
「果菜さん関心なさすぎ。でも果菜さんぐらい興味ない人の方がきっと案内役に向いてましたね。さっきも言った通り、容姿で注目されるのが芦沢専務はすごく嫌いで、ちょっとでも女子が近付こうとするとばっさりいくらしいんですよ」
「あ、そうなんだ。確かに近寄りがたい雰囲気がすごかった気がする。気軽に話し掛けられないみたいな」
思い出してうんうんと頷くと、舞花は「やっぱりそうなんですね」と言いながら、更に声のトーンを落とした。
「知ってます? 前に秘書課にいた前沢さん、芦沢専務のイケメンぶりにやられちゃってお近づきになろうとして怒らせちゃったらしいんですよ。何でも自分の連絡先渡そうとしたって」
「え……本当に?」
舞花の話に果菜は驚いて目を瞬いた。「前沢さん」を思い出してみると、確かに美人で容姿に自信がありそうなタイプではあった。それにしたって相手は取引先の会社のしかも役員で、おいそれと近づけない雰囲気まで纏っている。
例え好きになってしまったとしても、普通に考えたら自重するだろう。そのハードルを乗り越えたというのだから、信じられないと思ったのだ。
「本当ですよ。それで芦沢専務からクレームがきて、慌てて異動させたって話です」
「……そんな事情が。よく知ってるね」
確かに前沢は変な時期の異動で、果菜もおかしいなと思ったのでよく覚えていた。しかし、異動の理由まではもちろん知らない。情報通な舞花に思わず、感心の目を向けた。
「独自のネットワークがあるんで」
得意げな笑みを見せた舞花であったが、すぐにその表情を引っこめると意味ありげな顔で言葉を続けた。
「まあこれはうちの会社が配慮したんでしょうけど、自社でもそんな感じで煩わしい存在はばっさり排除しちゃうらしいんですよ。仕事でもとんでもなく頭が切れて意思決定のスピード感もすごいらしくて、しかもそれが的確で大体はずれなしなものだからマシーンとも呼ばれているらしいですよ」
「マシーン……」
「感情がないって意味もこめられてるらしいんです。ほとんど笑ったりもしないって」
果菜の呟きを聞いて付け加えるように言うと、舞花は肩を竦めた。
「やっぱり果菜さんが案内役で正解でしたね。私なんか、危なっかしくて任せられないでしょうし。でもどこまでのイケメンなのか見たかったなあ。ああ~気になる」
舞花が隣で何やら話していたが、果菜は別のことに意識をもっていかれていた。
(確か、前沢さんってコネ入社の人じゃなかったっけ。うちの役員の関係者だよね。だから秘書課にいたんだろうけど、秘書課って情報流失とかに厳しいし、コンプライアンスの意識が低い人がいると色々と問題があるんじゃ……そのあたりまで見越してクレーム入れたとしたら、確かに切れ者かも)
そんなにすごい人だったのか……と感心していると、横から舞花がつんつんと果菜の腕を突くように指先で触れた。
「果菜さんなんかマイワールド入っちゃってません? 私の話聞いてます?」
「え? ああ、ごめん。やだ、もうこんな時間? そろそろ仕事に戻らないと。世間話はここまで」
そこで果菜は今気付いたという風にわざとらしく時計を見て会話を打ち切った。
元はと言えば自分が話にのらなければよかった話だが、つい興味を惹かれてしまったことを反省しつつ、「はあい」と返事した舞花に微笑むと、果菜は仕事に戻るべくマウスを動かした。