離婚まで30日、冷徹御曹司は昂る愛を解き放つ
まさかの遭遇
その後、果菜は「芦沢専務」の来社に際して数回、案内役を務める機会があった。
しかし、舞花の話を思い出すと、とてもその姿をまじまじと見る気にはなれない。確かに格好良いなと思った程度に留めて、果菜は案内役に徹した。
会話を交わしたのは、最初の挨拶時と、ポケットから落としたと思わしきものを拾った時だけ。
これはエレベーターを降りる時に最後に振り返ったらたまたま見つけたものだった。おそらく、ポケットから何かを取り出そうとして、気付かずに一緒に落ちてしまったのだろう。ちなみに、メモかなにかのようだったが、果菜はあまり見ないようにしてすぐに渡したので、はっきりと何だったのかはわからない。
そんな本当に小さな接点しかなかった二人が、契約とは言えどうして結婚したのかというと。
その始まりは、果菜が従妹の結婚式に出た日のことだった。
この日、果菜は母の妹の娘である優香の結婚式に呼ばれて、都内にあるホテルに来ていた。
優香は果菜の一つ下の二十八歳。比較的近所に住んでいたこと、母親同士が仲が良いこともあって幼い頃はよく一緒に遊んでいた。
そんな優香が結婚ということで果菜も喜びの気持ちでいっぱいだった。
「お姉ちゃん、少し泣いてたでしょ。写真見てる時」
「いやあれははうるっときちゃうよ。みんなで旅行行った時の写真もあったね」
「お姉ちゃんがソフトクリーム落とした時の旅行ね」
「……よく覚えてるね?」
会も終盤になり、中座できそうなタイミングで、果菜は妹の奈菜と一緒に用を足すついでにトイレで化粧直しをしていた。
奈菜は果菜の二つ下で、三姉妹の真ん中のポジションになる。果菜と違い、垂れ目で童顔、かわいらしい容姿をしているのに、性格はだいぶしっかりしていた。
ちなみに親にはどっちがお姉ちゃんかわからないとよく言われている。
「この後たぶん優香ちゃんが手紙読むと思うけど、お姉ちゃんまた泣いちゃいそうだねメイク直した意味ないかも」
「……そうかも。いやでも泣かないのは無理ってもんじゃない? 小さい頃から知っててずっと仲良くやってきたし、もう家族に近い存在じゃない。感慨深くなっちゃうよ」
「そりゃもちろんそうだけどさ」
言いながら奈菜は果菜をちらっと見た。
「……なに?」
その目つきがずいぶんと意味ありげで果菜は不思議そうに首を傾けた。
「いや随分余裕だなあと思って」
「なにが」
もったいぶった言い方に眉を寄せると、奈菜は「焦らないの?」と一言言った。
「焦る?」
「優香ちゃんにまで先越されちゃった訳じゃん、結婚。私の時もお母さんにすごい圧かけられてたよね。妹に先越されるなんて、本当なら果菜が一番でしょって。優香ちゃんも年下だし、お母さん、叔母さんに妙に張り合うところあるから、もっとすごいんじゃないの?」
奈菜の言葉に果菜の表情が一気に曇る。心底うんざりした顔で「そうなの」と言うと、はあ、と大きなため息をついた。
しかし、舞花の話を思い出すと、とてもその姿をまじまじと見る気にはなれない。確かに格好良いなと思った程度に留めて、果菜は案内役に徹した。
会話を交わしたのは、最初の挨拶時と、ポケットから落としたと思わしきものを拾った時だけ。
これはエレベーターを降りる時に最後に振り返ったらたまたま見つけたものだった。おそらく、ポケットから何かを取り出そうとして、気付かずに一緒に落ちてしまったのだろう。ちなみに、メモかなにかのようだったが、果菜はあまり見ないようにしてすぐに渡したので、はっきりと何だったのかはわからない。
そんな本当に小さな接点しかなかった二人が、契約とは言えどうして結婚したのかというと。
その始まりは、果菜が従妹の結婚式に出た日のことだった。
この日、果菜は母の妹の娘である優香の結婚式に呼ばれて、都内にあるホテルに来ていた。
優香は果菜の一つ下の二十八歳。比較的近所に住んでいたこと、母親同士が仲が良いこともあって幼い頃はよく一緒に遊んでいた。
そんな優香が結婚ということで果菜も喜びの気持ちでいっぱいだった。
「お姉ちゃん、少し泣いてたでしょ。写真見てる時」
「いやあれははうるっときちゃうよ。みんなで旅行行った時の写真もあったね」
「お姉ちゃんがソフトクリーム落とした時の旅行ね」
「……よく覚えてるね?」
会も終盤になり、中座できそうなタイミングで、果菜は妹の奈菜と一緒に用を足すついでにトイレで化粧直しをしていた。
奈菜は果菜の二つ下で、三姉妹の真ん中のポジションになる。果菜と違い、垂れ目で童顔、かわいらしい容姿をしているのに、性格はだいぶしっかりしていた。
ちなみに親にはどっちがお姉ちゃんかわからないとよく言われている。
「この後たぶん優香ちゃんが手紙読むと思うけど、お姉ちゃんまた泣いちゃいそうだねメイク直した意味ないかも」
「……そうかも。いやでも泣かないのは無理ってもんじゃない? 小さい頃から知っててずっと仲良くやってきたし、もう家族に近い存在じゃない。感慨深くなっちゃうよ」
「そりゃもちろんそうだけどさ」
言いながら奈菜は果菜をちらっと見た。
「……なに?」
その目つきがずいぶんと意味ありげで果菜は不思議そうに首を傾けた。
「いや随分余裕だなあと思って」
「なにが」
もったいぶった言い方に眉を寄せると、奈菜は「焦らないの?」と一言言った。
「焦る?」
「優香ちゃんにまで先越されちゃった訳じゃん、結婚。私の時もお母さんにすごい圧かけられてたよね。妹に先越されるなんて、本当なら果菜が一番でしょって。優香ちゃんも年下だし、お母さん、叔母さんに妙に張り合うところあるから、もっとすごいんじゃないの?」
奈菜の言葉に果菜の表情が一気に曇る。心底うんざりした顔で「そうなの」と言うと、はあ、と大きなため息をついた。