離婚まで30日、冷徹御曹司は昂る愛を解き放つ
「既にすごいんだよ。妹にも、年下の従妹にも先越されるなんて恥ずかしくないの、もうすぐ三十歳なのにって。いい人はいないのか、探さないのか、どう考えているのかって、とんでもない圧かけられてる」

 母親の口真似をしながら一気に話した果菜は、もう一度、今度は長めのため息をついた。

 ついでに言うと、今日の圧もすごかった。母親とテーブルが違ったのがまだ救いだったが、顔を合わせた時に「果菜もちゃんと考えないとね」とちくりと言われていた。

「これでもし瑠菜(るな)が先に結婚でもしたらお母さん発狂するんじゃない」

 肩を竦めながら言われた言葉に、果菜は引き攣った笑いを浮かべた。

「まさか。瑠菜はまだ二十五だよ? そんな、結婚なんてまだ……」

「ええ、そうかな? 瑠菜は今の彼氏と大学生から付き合ってるからもう五年ぐらい経つし、そろそろそんな話が出てもおかしくないんじゃないかな」

「え、五年!? もうそんなに経つ!?」

 驚愕の情報に果菜の顔が愕然としたものに変わる。

 一番下の妹の瑠菜に彼氏がいることは知っていたが、もうそんなに長いとは思わなかった。これににわかに焦りのような感情がこみ上げる。

「で、でも、まだ若いし、そんなに急がないんじゃないかな~……もっとお金を貯めてとか、ほら色々あるでしょ」

 さすがに認めたくなくて、否定できる要素を必死に探す。奈菜の言う通り、瑠菜にまで先を越されたら母親からのプレッシャーはとんでもないものになるだろう。想像したくもなかった。

 果菜の実家は東京近郊の県内にあり、都心にも電車で二時間かからないぐらいで出れるが、駅周辺を除けば、まだまだ自然が多く残り、田園風景が広がる地域である。

 長く住んでいる人が多いので、住民同士の結びつきも強く、町の人のほとんどが顔馴染みといった感じで、人間関係がとても濃い。
少々おせっかいではあるが親切な人も多く、みんなが親戚みたいで温かい雰囲気ではあるが、それは裏を返せば、ご近所中に情報が筒抜けという訳で。

 母親は少々見栄っ張りなところがあるので、ご近所の手前、娘が行き遅れているのは体裁が悪いらしい。それに加えて、昔ながらの考えで結婚して一人前という意識が強く、娘たちにもとにかく早く結婚してほしいという気持ちを昔から持っていた。

 一緒に暮らしている時にそれをひしひしと感じていた果菜は、就職と同時に家を出たが、地元に残る奈菜の結婚を機に、離れて暮らしていてもしつこく結婚のプレッシャーをかけてくるようになった。
 
 特に果菜に付き合っている人がいないとわかってからは、見合いの勧めがすごくて果菜は辟易していた。そんな状況の中、優香までが結婚して、これからのことを考えると、果菜は気持ちが重くなる一方だったのだ。

 しかし今日は優香の結婚式。それは一旦忘れて、せっかく幸せな気持ちで楽しく過ごしていたのに急に現実に引き戻させられて、果菜は恨みがましい目で奈菜を見た。
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