離婚まで30日、冷徹御曹司は昂る愛を解き放つ
「瑠菜は今の彼氏と結婚考えているみたいだよ。お姉ちゃんはどうなの。付き合ってる人はいないんだっけ。結婚願望ないの?」
「そういう訳じゃないんだけど……」
化粧直しが先に終わった果菜は、トイレの壁にもたれて、鏡に向かってマスカラを塗り直している奈菜を見ながら苦笑いを浮かべた。
「けど、なによ。まあお姉ちゃん、昔から男を見る目なかったからなあ。もう男と付き合うの面倒とか思っちゃってるんでしょ」
「う」
マスカラを塗りながらこちらも見ずに辛辣に放たれた奈菜の一言に、果菜は思わず言葉を詰まらせた。
図星だったのだ。
奈菜の言う通り、果菜は男を見る目がない。と言うか、あまり相手の言葉を疑うということを知らないので、素直に信じてしまうのだ。恋愛経験は少ない方なのに、その中で何度か騙されてきた。
二股を掛けられたり、職業を偽られたり、結婚していることを隠してデートに誘われたり。何度かそういう経験を経て果菜は悟った。
自分は男女交際に向いていない。
たまたま悪い男に引っかかってしまっただけかもしれないが、騙すつもりでこられると、果菜にはそれが見抜けない。
さすがに大金を騙し取られるとか、そこまでくればわかるが、良い人間を装われる、ぐらいだとそこを疑うのも悪いなと思ってしまう。
そこまでして付き合うということがピンとこないのだ。果菜自身は自らを偽ってまで付き合いたいと思わなかったから。そういう男性がいることを、想定していなかった。
さすがに経験を経て今はそういうケースも多々あるということはわかったが、今度はそうすると、出会う男性すべてが疑わしく思えてしまって軽く男性不信に陥ってしまった。
どこまでが本当なのかがわからなくなってしまい、疑心暗鬼でもう恋愛どころではない。
そうなってくると、段々と恋愛自体が面倒になってしまって、そこまでして彼氏を作らなくてもいいやという境地に至ってしまった。
だから今のところ、結婚も全く考えていない。恋愛も難しいのに結婚だなんてますますハードルが高く感じてしまう。
母親は付き合っている人がいないなら見合いしろと言うが、よく知らない人と結婚を考えるなんて冗談ではなかった。
だったら独り身で生きていく方がましで、まだ深刻に考えていないだけかもしれないが、案外その方が楽しく生きていけそうな気もしていた。
「結婚するつもりないなら、お母さんへの対策は何か考えておいた方がいいよ」
束の間言葉を途切れさせて別のことを考えていた果菜だったが、奈菜の言葉に顔をあげる。奈菜は化粧直しを終えて冷静な眼差しでこちらを見ていた。
「……うん、わかってるんだけど……どうしたもんかなあ。何かお母さんが納得しそうな良い言い訳ある?」
「あのお母さんが納得する言い訳? そんなのそうそうないよ。もう遠くに引っ越すしないんじゃない? 海外とか」
実現が難しそうな提案をされて、果菜は困ったように眉を下げる。「無理無理」と言いながら、やや大げさに顔の前で手をふった。
「じゃあ、彼氏ができたと嘘をついてずるずると引き延ばす。あとは婚活パーティーとかに行って、とりあえず相手を見つけて離婚前提で一回結婚してみる」
淡々と提案してくる奈菜に、よくこんなスラスラと出てくるなと内心感心しつつも、果菜は腕組みをして、うーんと首を捻った。
「彼氏ができたと嘘つくのが、一番できそう……かな。とりあえずでも相手を見つけるのは、変な人引き当てちゃったらと思うと怖い」
「見る目ないもんね。あ、お姉ちゃんそろそろ戻らないと。そろそろ花嫁の手紙始まっちゃう」
「うそ。やばい。もどろもどろ」
そこで果菜たちは会話を切り上げると急ぎ足で会場に戻った。
「そういう訳じゃないんだけど……」
化粧直しが先に終わった果菜は、トイレの壁にもたれて、鏡に向かってマスカラを塗り直している奈菜を見ながら苦笑いを浮かべた。
「けど、なによ。まあお姉ちゃん、昔から男を見る目なかったからなあ。もう男と付き合うの面倒とか思っちゃってるんでしょ」
「う」
マスカラを塗りながらこちらも見ずに辛辣に放たれた奈菜の一言に、果菜は思わず言葉を詰まらせた。
図星だったのだ。
奈菜の言う通り、果菜は男を見る目がない。と言うか、あまり相手の言葉を疑うということを知らないので、素直に信じてしまうのだ。恋愛経験は少ない方なのに、その中で何度か騙されてきた。
二股を掛けられたり、職業を偽られたり、結婚していることを隠してデートに誘われたり。何度かそういう経験を経て果菜は悟った。
自分は男女交際に向いていない。
たまたま悪い男に引っかかってしまっただけかもしれないが、騙すつもりでこられると、果菜にはそれが見抜けない。
さすがに大金を騙し取られるとか、そこまでくればわかるが、良い人間を装われる、ぐらいだとそこを疑うのも悪いなと思ってしまう。
そこまでして付き合うということがピンとこないのだ。果菜自身は自らを偽ってまで付き合いたいと思わなかったから。そういう男性がいることを、想定していなかった。
さすがに経験を経て今はそういうケースも多々あるということはわかったが、今度はそうすると、出会う男性すべてが疑わしく思えてしまって軽く男性不信に陥ってしまった。
どこまでが本当なのかがわからなくなってしまい、疑心暗鬼でもう恋愛どころではない。
そうなってくると、段々と恋愛自体が面倒になってしまって、そこまでして彼氏を作らなくてもいいやという境地に至ってしまった。
だから今のところ、結婚も全く考えていない。恋愛も難しいのに結婚だなんてますますハードルが高く感じてしまう。
母親は付き合っている人がいないなら見合いしろと言うが、よく知らない人と結婚を考えるなんて冗談ではなかった。
だったら独り身で生きていく方がましで、まだ深刻に考えていないだけかもしれないが、案外その方が楽しく生きていけそうな気もしていた。
「結婚するつもりないなら、お母さんへの対策は何か考えておいた方がいいよ」
束の間言葉を途切れさせて別のことを考えていた果菜だったが、奈菜の言葉に顔をあげる。奈菜は化粧直しを終えて冷静な眼差しでこちらを見ていた。
「……うん、わかってるんだけど……どうしたもんかなあ。何かお母さんが納得しそうな良い言い訳ある?」
「あのお母さんが納得する言い訳? そんなのそうそうないよ。もう遠くに引っ越すしないんじゃない? 海外とか」
実現が難しそうな提案をされて、果菜は困ったように眉を下げる。「無理無理」と言いながら、やや大げさに顔の前で手をふった。
「じゃあ、彼氏ができたと嘘をついてずるずると引き延ばす。あとは婚活パーティーとかに行って、とりあえず相手を見つけて離婚前提で一回結婚してみる」
淡々と提案してくる奈菜に、よくこんなスラスラと出てくるなと内心感心しつつも、果菜は腕組みをして、うーんと首を捻った。
「彼氏ができたと嘘つくのが、一番できそう……かな。とりあえずでも相手を見つけるのは、変な人引き当てちゃったらと思うと怖い」
「見る目ないもんね。あ、お姉ちゃんそろそろ戻らないと。そろそろ花嫁の手紙始まっちゃう」
「うそ。やばい。もどろもどろ」
そこで果菜たちは会話を切り上げると急ぎ足で会場に戻った。