離婚まで30日、冷徹御曹司は昂る愛を解き放つ
 気まずそうに答えるのを見て、遼がふっと笑う。

 果菜は機械オンチなのだ。特に高性能の家電とか電子機器の操作が苦手ですぐにエラーになってしまう。説明書を読んで試しているつもりで、見当違いのことをしていることがよくあった。

 しかも、果菜のその性質は、機械の操作だけでなく日常生活でもちょいちょい顔を出し、遼を何度となく呆れさせてきたから猶更だ。果菜はいわゆるおっちょこちょいなところがあって、自分でも頭を抱えたくなる失敗をたまにやらかしてしまうのだ。

「別にいいけど。家事が大変だったらハウスキーパーが来る回数を増やしてもいい」

「いや、大丈夫。今のままで、十分」

 遼の言葉に、果菜は取り繕うような笑みを浮かべながら首を振った。お気遣いなくというように、小さく手を上げる。

(そっちはハウスキーパーなんていて当たり前かもしれないけどさ……家にいつも人がいるのは気を遣うのよ)

 現在、この二人は住んでいるマンションには、週に二回ほど、ハウスキーパーが訪れて家の掃除などをしてくれている。
 結婚当初、ハウスキーパーについて、遼は、毎日来てもらって掃除から食事までのすべての家事を依頼しようと提案があった。しかし、果菜はそれを断った。

 毎日家に他人がいるなんて絶対落ち着かないと思ったのだ。そうでなくてもその時は、よく知らなかった遼と突然に一緒に暮らすことになって、これ以上イレギュラーな状況は避けたいという気持ちもあった。

 だったら家事ぐらい自分でやると思ったのだが、如何せん果菜一人で管理するにはこの家は広すぎた。なにせトイレやバスルームだけでもそれぞれ三つぐらいあるのだ。仕事もしている果菜がすべての家事を担うのは無理があるということで、週二回、来てもらうことで落ち着いたのだった。

 ちなみに、遼と家事を分担するというのは現実的ではない。彼はなかなかに忙しい立場にあるし、何より、自らそんなことをするような存在ではなかった。
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