離婚まで30日、冷徹御曹司は昂る愛を解き放つ

はじまりの二人

 果菜が遼と初めて会ったのは、果菜が勤める大手繊維メーカー、MIKASAの本社が入るビルの一階、受付前だった。

 果菜は昔も今もMIKASAの総務部で働いている。しかし、当時、結婚、産休、病気など、理由は様々だったが退職や休職、異動が相次ぎ、一時的に秘書課が人手不足に陥ってしまっていた。

 それで、総務部の女子社員が秘書課のサポートに入ることになり、果菜も総務の仕事の傍ら、人手が必要な時に秘書課の業務を手伝っていた。

 その日も果菜は秘書課の業務を行っていて、社長とアポイントのある者を受付から社長室まで案内する役を仰せつかっていた。
 似たような業務は何度か経験していたが、果菜は少々緊張していた。今回案内するのは何と言っても社長のお客様だ。

 お客様をスムーズにお出迎えするために、入口付近で待ち構えて社長室まで案内する。

 ただこれだけの内容であったが、その少しの間でも失礼があったら大変だ。自分におっちょこちょいなところがあるのをわかっている果菜は、常日頃から仕事中は気を張るようにしていたが、その時は特に自分を戒めていた。

 それは、案内する相手が、「アスト株式会社の専務取締役」と聞いていたことも理由の一つだった。

 当時、MIKASAは新素材の開発に成功していて、その新素材を使った新しいスポーツウエアのブランドを、アストと共同で立ち上げるプロジェクトが進められていた。

 そのプロジェクト立ち上げにあたり、業務提携を結ぶために、当時新プロジェクトの担当役員だった遼が来社したのだった。
 その時は遼の来社に関して、そこまでの詳細は知らなかったが、超大手企業のアストの役員が来社するのだ。何やら重要な用件なのだろうということは、その雰囲気から察していた。

 その日は朝から小雨が降っていた。そんな中秘書を伴って現れた遼は、おいそれとは近づけない、圧倒的なオーラを纏っていた。

 大企業の役員と言うからには、もっと年上の人間だと思っていたため、果菜はその若さに少々驚いた。
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