離婚まで30日、冷徹御曹司は昂る愛を解き放つ
 果菜自身は自分を「おっちょこちょい」「うっかり者」「ドジ」あたりの類だと思っている。けれど妹が二人いて、長女ということもあってか責任感だけは割とある。だから仕事や、学生時代だと係や委員といったことに対して、しっかりこなさくてはいけないという意識が強かった。

 しかし、もちろん完璧にはできない。自身の能力以上のことをしようして、何度か痛い目を見て、果菜も学習した。

 大事なのは事前準備である。勢いでいきなりやろうとするから、想定外の躓きが出てそれに慌て、連鎖的にミスが発生して大きなポカに繋がるというのが果菜のやりがちなパターンだった。

 仕事に限れば業務はマニュアル化されていたし、何度も経験すれば自分が躓きがちなポイントもわかる。

 幸いにも入社してから部署移動がなかったことで、そこで経験を重ねることによって業務への理解が深まり、自分なりの対処法を編み出すことで、果菜は仕事上での「うっかり」をだいぶ減らすことに成功していた。

 しかしそれは致命的なミスをしないというだけで、決して仕事が「デキる」訳ではない。

 しかし、果菜から三年遅れて総務部にきた舞花は、果菜の最初の方もあたふたぶりを知らないせいか、落ち着いて仕事をこなしているように見えたらしい。もしかするとそれは、果菜の見た目にも関係しているかもしれなかった。

 切れ長の涼しげな目元にすっきりとした鼻筋、薄い唇。
 身長も百六十五センチと女性としてはやや高めで、胸もお尻もあまりボリュームがなく、良く言えばすらりとした、悪く言えば貧相な体つき。

 だから舞花のようなフェミニンな格好があまり似合わず、パンツスタイルや、スカートにしても飾り気のないシャツとあわせるなど、シンプルなコーディネートを選びがちである。

 思えば昔から「クール」とか「落ち着いている」とか言われがちだったかもしれない。

 つまり果菜は、性格と違う印象を与える、変に誤解されがちな見た目なのだ。

「で、アストの芦沢専務どうでした? 超イケメンって噂、ほんとでした?」

 周囲を窺う様子を見せつつ、トーンを落とした声でそう聞いてきた舞花は、好奇心が剝き出しの表情をしていた。
 果菜はそんな舞花を見て、虚を突かれたかのように目をぱちぱちと瞬いた。

「え? ああ。そう言えば格好良かったかも」

 言われて思い出してみれば、件の「芦沢専務」の顔がぼんやりと脳裏に浮かぶ。確かにその顔は整っていてイケメンだったかもしれない、と果菜は今更ながらに思った。
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