離婚まで30日、冷徹御曹司は昂る愛を解き放つ
「反応薄すぎません⁉ 芸能人ばりのイケメンだって話ですよ⁉」

 ひどく驚いたようなリアクションをされて、果菜は困ったように笑った。

「いやだって、じろじろ見たら失礼でしょ? 案内中はなるべく見ないようにしてたし、失礼がないように気を付けるのに精一杯でそんな余裕ないよ。思ったよりも若かったってことぐらいしか覚えてない」

 舞花にとって果菜は「デキる先輩」なのかもしれないが、内情はそれには程遠い。総務部の業務ならまだしも、秘書課の業務にはまだ慣れていないところがあって、業務中、果菜はいつも以上に気を張っていた。

 割とちょっとしたことでいっぱいいっぱいになってしまうのだ。けれど、来客応対では、それを顔に出すことはできない。
 落ち着いた振る舞いも求められる。だから果菜的に気を遣うところがいっぱいあって、正直来客者の顔まで気を払っていられなかった。

 舞花は少し声が大きくなってしまってまずいと思ったのか、口元を手で押さえながらもひそひそと話を続けた。幸いにも席を外している人が多く、周囲にあまり人はいなかった。

「いや私だったらそれでも見ちゃいますね。目に焼き付けますよ。だって知ってました? 芦沢専務ってあのアストの社長の息子なんですよ。それで若くして専務! しかもただのボンボンじゃないんですよ。すごい優秀なんですって。何でも、超赤字で取り潰し寸前だったアウトドア部門を立て直して人気ブランドまで押し上げたのが、芦沢専務らしいんです。それでもって顔面まで強いとなったらもうパーフェクトじゃないですか」

 ひそひそと声を低くしながらも捲し立てると、舞花はハンターのようにきらんと目を光らせた。

「まさに私たちからしたら、雲の上のような存在。そんな殿上人を見る機会なんて滅多にないですよ。それなのに、その特上のお顔を拝まないなんて、信じられない。超もったいないですよ、果菜さん。イケメンに興味ないんですか?」

「そういうわけじゃないけど……仕事中はそんなに人の顔面とか気にならないかなあ」

 舞花の勢いに気圧されながらも、スリープ状態だったパソコンを起動させながら果菜は言った。

 そこまで言われると、すごくもったいないようなことをしたような気もしてくるが、ただ鑑賞したいだけであれば、イケメンなんぞはそれこそネットで探せばいくらでも出てくるし、それで充分な気もする。

 自分と関わり合いになる訳でもない人の容姿を気にして仕事がおそろかになってしまうぐらいなら、それよりも致命的なミスをしないことの方が重要だ。

「果菜さんは真面目だもんなあ……だから今回も案内役任されたんだと思いますよ。芦沢専務、容姿に注目されるの、だいっっきらいらしいですし」

 「だい」の部分をやたらと強調して言った舞花を、果菜は驚いたように見た。
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