規則正しい、三角関係!?〜交際禁止を守りたいから、2人とも邪魔しないで?〜
「あのさ、真澄くん。
ちょっと気になることがあって…」
「えっ!…な、なんスか」
「なんで聞くかとか、理由はあんまり考えないで欲しいんだけど………」
「!!!はっ、はい」
「……流星って、クラスに仲良い女の子って、いる?」
「は…………」
ピタリ。
真澄くんの足が止まった。
数秒間の硬直後、突然、大きなため息をついてしゃがみこみ、顔をうずめてしまった。
散らからないよう、ダンボールを自分の体で支えている。
「なんや思ったらアイツのことか…
てっきり、この前のこと気にしてくれとんのやと…」
…そして何か、ボソボソと呟いている。
「えっと…真澄くん?大丈夫?」
「…あー、斉藤と仲良い女子、でしたね。
…おらんのちゃいますか。いっつも女子に塩対応なんで」
うーん。そうか。
流星は他人に冷たいところがあるから、不思議じゃないな。
じゃあクラスの女子ではないってことか…?
これはもう、お手上げかもしれない。
「わかった、ありがとう。立てる?」
しゃがんで俯いたままの彼に手を差し出してみると、ガシッと掴まれた。
思わず「わっ!」と声が出てしまった。
真澄くんは、そのまま動かなくなった。
「………気になっとるんですか、アイツのこと」
「えっ?いや、気になるというか……
うん、まあ、気になる、に入るのかな…?」
「……す、好き…ってことですか」
「…?
好きか嫌いかっていったら、好きだけど?」
「や、そうやなくて…!その…れ、恋愛的な…」
「えっ、私が?」
ようやく顔をあげた真澄くんは、
他に誰がいるんだといいたげな目で、こちらを見あげた。
「その…彼氏とちゃうってのは聞きましたし、交際もせえへんのは、わかっとるんですけど……
栞さんに、す、好きな人は、おらんのですか」
「恋愛的に、好きな人…かあ。
んー、あんまりよくわかんないんだよね。多分いない、と思う」
「そ、そうですか……」
真澄くんは強張っていた肩を緩め、掴んだ手も離してくれた。
立ち上がり、私のクラスへ向けて、再び歩みを進める。
「ねえ。真澄くんは、好きな人いたことある?」
「えっ、い……いま……いや、えと、あ、ありますよ」
「そうなんだ。
…恋愛の好きって、どこから?どんな感じ?」
「えっ」
真澄くんはギョッとしつつも、少し考える素振りをする。
「実は俺も、ようわからんのですけど…
顔見てるだけで、心がぎゅってなるいうか…
笑顔が頭からはなれんかったり…
ばったり会えんかな、とか。メッセージこんかな、とか。気づいたら、その人のことばっかり考えてたり…」
おお。
なんというか、すごくリアルな意見だ。
引き換えに、真澄くんの顔は、真っ赤になっている。
「ありがとう。
やっぱ、私にはまだ経験したことがない感覚みたい。
…そんな風に、真澄くんに想われる子は幸せだね」
「はは…そう思ってくれたら、ええですけどね…」
ちょうど3組に到着し、
ダンボールのお礼を伝えた後、真澄くんのお目当てである黒ペンキを渡した。
そして、自分の教室へと戻る、その大きな背中を見送った。
夕方。
前夜祭の大歓声の中、私は1人、ぼうっと考えごとをしていた。
いつか私も、流星や真澄くんのように、誰かを想える日がくるんだろうか…。
んー、来てほしくない…ような、
来て欲しい…ような?
こういうのにも、ルールがあれば、従うだけなのにな…。