規則正しい、三角関係!?〜交際禁止を守りたいから、2人とも邪魔しないで?〜

間章.笠井凛のクリスマス



****


「……ろ……さい……」


夢と現実の狭間。ふわふわの空間。
遠くの方から、ぼんやりと男の人の声が聞こえる。


何を言ってるんだろ。


「……いー。…さいー…」


イーサイ?
e……sin?
…数式?


「……か…ろ………い……」


うーん。理解不能。

でも、これだけは分かる。
アタシ(笠井 凛)好みの声じゃない。


「……い。……い!」


よし。ダメだ。諦めよう。


「……かーさーいーー!!!」

「ええ?アタシの名前じゃん」


突然、頭上にふってきた、
しゃがれた怒声にビックリ。

見上げると、鬼の形相のせんせーの顔。


さっきまで漂っていた、
ピンクっぽいふわふわの空間は消えちゃって、
一気に、茶色の地味〜な教室の風景へと引き戻された。


「さっきから何回も呼んどるだろ!起きろ!
もーまったく…ただでさえ補習組なのに」

「待って!寝てないよ!
ちょーっと、まどろみの中にいただけ!」

「それを寝てると言ってるんだ!」


いつものクラスメイトよりも、少人数の補習教室で、
控えめな笑いがおきる。


「笠井……いいのか?
みんなと一緒に進級できなくなるぞ」

「え、怖っ。
…ごめんなさーい。ちゃんと起きときまーす」


あーあ。

せっかくのクリスマスイブなのにさ。
補習だし。せんせーに怒られるし。脅されるし。

ため息出ちゃう。


今頃、栞は……
「不安なメンバーだ」とかなんとか言いながらも、
3人で楽しくキャッキャしてんだろーな。


くそー。

これが、ステージに立つ推しを愛した代償か……。



「笠井さんって、面白いよね」

10分休憩に入った直後、
初対面の、他クラスの男の子から話しかけられた。


「どーも」


名前も知らない子だけど、
ふと気になったことがあって、
彼の顔をじっと見てしまった。


「な、なに?」

「いやー…
眼鏡かけてる人も、補習になるんだなって」

「…それ偏見じゃない?眼鏡に対する」

「あはは、ごめんごめん。数学苦手なの?」

「うーん。得意って訳じゃないけど、
今回は風邪でテスト受けられなくて」

「えっ、可哀想」

こういう人も、
補習受けなきゃいけないんだな。


「笠井さんは、苦手なの?数学」

「まあ、苦手は苦手だけど…
補習を受けるほどじゃないよ。いつもは」

「いつもは?」

「うん。
今回は、勉強時間を全て犠牲にして、
推しのライブのために全力を注いだ結果、
こーなった」

「お、推し……?…ふはっ」


男の子が、吹き出して笑った。
そんなに?ってほどウケている。

「…なに?バカにしてる??」

「いや、ちが…!なんか、素直な人だなって」


彼は、涙まで出てきたのか、
目元を拭うために眼鏡をとって………


「…ん!?ちょっ、ちょっと待って!!」

「えっ!?」

眼鏡をかけ直そうとする手を制して、
彼の顔をまじまじと見ると……


「斗真くん!?」


眼鏡を外した彼の顔は、
推しNo.35、舞台俳優の斗真くんに、
驚くほどそっくりだった。


くっ。
校内のイケメンは、全てチェックしたはずなのに。
こんなところに刺客がいたなんて…。


これは[南条高イケメン同好会(非公式)]のメンバーに報告しなくては…!

ウチの高校では、他学年の子の情報が中々入らないから、
この同好会での横のつながりは、かなり重大だ。


「トウマ…?
藤白(ふじしろ)の下は、(れん)…だけど」

「フジシロ……ってどうやって書くの?」

「あ、名字すら知られてなかったんだね、僕。
藤の花の藤に、白色の白だよ」


言いながら、空書きで教えてくれる。
あ、指が長くて、綺麗。


「僕は笠井さんのこと、去年から知ってるのにな」

「…えっ、ウソ!なんで?!」

私が驚いたと同時に
『ガラ』っと扉が開く音がした。

「おーい。休憩時間終わったぞー。席つけー」


もう、せんせーのばかっ!
気になるとこで…!!


眼鏡をつけ直しながら、軽く手を振って、
「またね」と席に戻っていった藤白くん。


なんか…
かっこよかったな。


流星くんとか純くんには無い、
余裕みたいなものもあるし。


…あ、どうしよ。
同好会での横のつながりは命のはずなのに。


報告したくない……。
だって、知られてほしくない。

私だけが知ってていたい………なんて。

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