お嬢さまですもの!
 ミレーヌとの会話。

 魔法でケガを治してもらったこと。

 さらに、執事のアルフレッドも魔法で馬車を出したこと。

 夢なのか、現実なのか、あいまいなあの時間――。

 それらは自分の胸にしまっておきたくて、誰にも言ってない。

 わたしだけの秘密なんだ。


「おい椿(つばき)、なんでそんな女子みたいなもの使ってんだよ?」

「こいつ小学校のときからこうだぜ。ランドセルもピンクだったし」

「ぎゃはは。マジかよ。ありえねー」


 教室のうしろの方から、男子のさわぐ声がして、そちらに目をやった。

 かのんが舌打ちする。


「また理央(りお)がからまれてるよ」


 クラスの男子数人に囲まれているのは――椿理央くん。

 わたしとかのんと同じ校区の小学校出身。つやつやした黒髪を長めに伸ばして、かわいいヘアピンで前髪を止めている。

 理央くんは、お父さんが空手道場の師範をしていて、その影響で幼いころから空手に打ちこんでいる男の子。

 身長はわたしとほぼ同じだけれど、よく日に焼けて、さわやかなスポーツマンでカッコいい。

 その反面、かわいらしいものが大好きという変わった一面がある。

 ランドセルはピンクだったし、文房具も女の子向けキャラクターのものを使うし、スカートをはいてきたり、ワンピースを着てくることもあった。
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