お嬢さまですもの!
「わかった。再テスト受けてみるよ」


 覚悟を決めたように、理央くんがニコッとしたから、わたしはほっとした。


「あのね、雪平先輩からのアドバイスなんだけど……女装に対する覚悟を示せたら受かるんじゃないかって……」

「覚悟か……」


 あごに手を当て、考えをめぐらせる理央くん。


「ちょっと考えてみるよ」


     * * *


 放課後、わたしは初めてひとりで旧校舎に足を踏み入れた。

 相変わらず、電気がついてないから真っ暗だ。

 ビクビクしながら階段をのぼって、何とか四階の音楽室にたどり着いた。


「失礼します」


 戸をノックしてから、中に入る。


「お待ちしておりました、桜子お嬢さま」


 執事モードの雪平先輩が姿勢よく立っていて、うやうやしく頭を下げる。

 桜子……お嬢さま……!?

 とってもむずがゆい。


「ヤダ、雪平先輩。わたし、後輩ですよ? やめてください」


 あわてて言ったけど、雪平先輩は表情を崩さない。


「いえ、桜子さまは正式に『お嬢さま部』の部員になられたのです。部活動の間、わたくしたちは執事とお嬢さまでございます。わたくしに対して敬語は、ご遠慮いただきとうございます。わたくしのことは『雪平』とお呼びください」

「はあ……」


 ちゃんと設定を守って、お嬢さまになりきらないといけないらしい。


「えっと……九条先輩と宝来先輩は……?」


 ふたりの姿が見当たらない。
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