お嬢さまですもの!
 お父さんが言う通りで、お嬢さまになりきることで、わたしは自分を変えつつあった。

 お嬢さま言葉を使っていると、自然と、人や物事をほめることになる。

 それは、人への敬意を大事にして、何事もポジティブに捉えなければ、本当の意味で上品に振る舞うことはできないからなんだ。


 ――言葉には魂が宿る。


 杏奈さまに言われたことが、今はわかる気がする。

 最近のわたしはオドオドしたりすることが減って、余裕が出てきたし、口数も増えた。


「お父さま、お母さま。行って参ります!」


 元気よく家を出て、背すじをピンと伸ばして歩く。

 気持ちのいい朝だなぁ。

 心に余裕があると、いつもの景色も色あざやかに見える。

 しばらく歩いていると、うしろから声をかけられた。


「桜子お嬢さま、おはようございます!」

「ごきげんよう、理央」


 いつもの調子で挨拶をかわしたら、そばを歩いている女の人にジロジロ見られてしまった。

 さすがに素に戻ってしまうわたし。


「あっ……部活中じゃないから、普通でいこうよ、理央くん」

「ダメですよー。今は特訓中なんですから、常にメイドとお嬢さまになりきっていないと……」


 口をとがらせた理央は、今日もセーラー服を着ている。

 すっかり見慣れてしまって、最初は学ランを着ていたことなんて忘れてしまいそうだよ。
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