大魔法使いアンブローズ・オルブライトによる愛弟子たちへの優しい謀略
オルブライト侯爵の謀略 3
パトリスはこれまでのことを全てブラッドに話した。
勘当されて屋敷を追い出されたこと。
アンブローズに拾われて彼の屋敷でメイドとして働いていたこと。
そして、ブラッドが視力を失ったと聞いて、自分から立候補してリズとしてそばにいたこと。
「……なるほどね。師匠め……パトリスには目のことを言わないでほしいと頼んでいたのに、最初から知らせていたのか……」
「ど、どうして私には知られたくなかったの?」
「心配してくれるからに決まっているだろう? パトリスに心配かけさせたくなかったんだ」
ブラッドは眉尻を下げると、パトリスの頭をまた撫でる。
労わるような手が心地よい。しかし先ほど彼と交わしたキスを思い出してしまい、パトリスは自分の頬が熱くなるのを感じた。
「それにしても、どうしてブラッドの目が見えるようになったのかしら?」
「……きっと、パトリスのおかげだよ」
「私……?」
「パトリス、実はオルブライト侯爵夫人からさっき聞いたばかりだったんだけど――君は魔法が使えるんだ。それも、とてもすごい魔法をね。普通の人では治せないような怪我や病を治せる力を持っている。だけどその力を持っていることが公になると、一部のよくない魔法使いに狙われる可能性があるから、君のお母さんは魔法を使えないようにした。その魔法が解けて――無意識のうちに俺の目を治癒してくれたんだ」
「お母様のかけた魔法が急に解けたのね」
「……違うよ。俺たちで解いたんだ」
ブラッドは照れくさそうにそう言うと、パトリスの唇をすっと指で撫でた。
「その魔法はね、愛する人とのキスで解けるから」
「……えっ?!」
パトリスの顔が林檎のように真っ赤になる。
ブラッドはその様子を愛おしそうに見つめた。
「このままパトリスと話していたいけど……まずはプレストン伯爵らに備えないといけないな。きっとパトリスが発動させた魔力を感じ取って、こちらを探ろうとしているに違いない」
ブラッドはやや名残惜しそうにそう言うと、パトリスを連れて屋敷に戻った。屋敷の中に入ると、扉や窓に手を翳し、念入りに魔法をかける。
「それはどんな魔法なの?」
「防御魔法だよ。あと、解錠する魔法のみ無効化する術式を組み合わせた」
「そんなこともできるのね」
すると二人の前にシレンスが現れる。
もうすっかり寝ているものだと思っていたのに、彼はきっちりと執事服に身を包んでいるではないか。
シレンスはパトリスとブラッドを交互に見ると、ひとりで納得したように首肯した。
その表情は少し柔らかく、口角は微かに上を向いている。
「ホリングワース男爵、視力が戻ったようでなによりです。そして、パトリスと再会できたのですね」
平常運転なシレンスの言葉に、ブラッドは少し不服そうに眉根を寄せる。
「シレンスさんはリズさんの正体を知っていたのですね?」
「はい。正体を隠しているとはいえプレストン伯爵から狙われる可能性があるとして、パトリスを守るよう旦那様から仰せつかっております。ちなみに、パトリスが本当は魔法が使えることも、魔法を封印されていることも、旦那様から聞いていました」
「えっ……シレンスさんは知っていたんですか?」
パトリスは愕然とする。
自分は今まで魔法を使えないと思い、何度も絶望した。そのせいで恋だって諦めようとしたのだ。
「ああ、師匠にすっかりしてやられたよ」
ブラッドは恨めし気に呟いた。
「旦那様になにか考えがあってのことでしょう。それにしても、先ほど庭から感じた大きな魔力はパトリスのものですね。きっとあの魔力に反応したプレストン伯爵らが探りを入れてくるはずです。対策を取りましょう」
「そうだね。当初の予定ではこの屋敷は彼らの目を欺くための拠点の一つに過ぎなかったけど、今は本拠地と言っても変わらない。彼らの狙いはパトリスだからね。……ひとまず窓と扉には防御魔法をかけたから、簡単には突破できないはずだ。あとは庭の草木に少し手伝ってもらったり、庭に罠を用意しようか」
勘当されて屋敷を追い出されたこと。
アンブローズに拾われて彼の屋敷でメイドとして働いていたこと。
そして、ブラッドが視力を失ったと聞いて、自分から立候補してリズとしてそばにいたこと。
「……なるほどね。師匠め……パトリスには目のことを言わないでほしいと頼んでいたのに、最初から知らせていたのか……」
「ど、どうして私には知られたくなかったの?」
「心配してくれるからに決まっているだろう? パトリスに心配かけさせたくなかったんだ」
ブラッドは眉尻を下げると、パトリスの頭をまた撫でる。
労わるような手が心地よい。しかし先ほど彼と交わしたキスを思い出してしまい、パトリスは自分の頬が熱くなるのを感じた。
「それにしても、どうしてブラッドの目が見えるようになったのかしら?」
「……きっと、パトリスのおかげだよ」
「私……?」
「パトリス、実はオルブライト侯爵夫人からさっき聞いたばかりだったんだけど――君は魔法が使えるんだ。それも、とてもすごい魔法をね。普通の人では治せないような怪我や病を治せる力を持っている。だけどその力を持っていることが公になると、一部のよくない魔法使いに狙われる可能性があるから、君のお母さんは魔法を使えないようにした。その魔法が解けて――無意識のうちに俺の目を治癒してくれたんだ」
「お母様のかけた魔法が急に解けたのね」
「……違うよ。俺たちで解いたんだ」
ブラッドは照れくさそうにそう言うと、パトリスの唇をすっと指で撫でた。
「その魔法はね、愛する人とのキスで解けるから」
「……えっ?!」
パトリスの顔が林檎のように真っ赤になる。
ブラッドはその様子を愛おしそうに見つめた。
「このままパトリスと話していたいけど……まずはプレストン伯爵らに備えないといけないな。きっとパトリスが発動させた魔力を感じ取って、こちらを探ろうとしているに違いない」
ブラッドはやや名残惜しそうにそう言うと、パトリスを連れて屋敷に戻った。屋敷の中に入ると、扉や窓に手を翳し、念入りに魔法をかける。
「それはどんな魔法なの?」
「防御魔法だよ。あと、解錠する魔法のみ無効化する術式を組み合わせた」
「そんなこともできるのね」
すると二人の前にシレンスが現れる。
もうすっかり寝ているものだと思っていたのに、彼はきっちりと執事服に身を包んでいるではないか。
シレンスはパトリスとブラッドを交互に見ると、ひとりで納得したように首肯した。
その表情は少し柔らかく、口角は微かに上を向いている。
「ホリングワース男爵、視力が戻ったようでなによりです。そして、パトリスと再会できたのですね」
平常運転なシレンスの言葉に、ブラッドは少し不服そうに眉根を寄せる。
「シレンスさんはリズさんの正体を知っていたのですね?」
「はい。正体を隠しているとはいえプレストン伯爵から狙われる可能性があるとして、パトリスを守るよう旦那様から仰せつかっております。ちなみに、パトリスが本当は魔法が使えることも、魔法を封印されていることも、旦那様から聞いていました」
「えっ……シレンスさんは知っていたんですか?」
パトリスは愕然とする。
自分は今まで魔法を使えないと思い、何度も絶望した。そのせいで恋だって諦めようとしたのだ。
「ああ、師匠にすっかりしてやられたよ」
ブラッドは恨めし気に呟いた。
「旦那様になにか考えがあってのことでしょう。それにしても、先ほど庭から感じた大きな魔力はパトリスのものですね。きっとあの魔力に反応したプレストン伯爵らが探りを入れてくるはずです。対策を取りましょう」
「そうだね。当初の予定ではこの屋敷は彼らの目を欺くための拠点の一つに過ぎなかったけど、今は本拠地と言っても変わらない。彼らの狙いはパトリスだからね。……ひとまず窓と扉には防御魔法をかけたから、簡単には突破できないはずだ。あとは庭の草木に少し手伝ってもらったり、庭に罠を用意しようか」