大魔法使いアンブローズ・オルブライトによる愛弟子たちへの優しい謀略
オルブライト侯爵の謀略 4
ブラッドとシレンスは二人で屋敷中に魔法をかけた。
その間パトリスは、二人のために夜食やお茶を用意した。
「私も二人のように魔法が使えるのよね?」
屋敷中に魔法をかけ終わったブラッドに、パトリスが躊躇いがちに問う。
「うん、もう使えるよ。だけどしばらくはコントロールできるように練習した方がいいから、一緒に練習しようね」
「じゃあ私、諦めなくていいのね」
パトリスはうっすらと目に涙を浮かべて喜ぶ。
「諦めるって、なにを?」
「ブラッドを好きでいること」
「えっ、絶対に諦めないでね?! もしもパトリスが諦めようとしたら、全力で追いかけて止めるから」
ブラッドが真面目腐った顔でそう宣言すると、二人は顔を見合わせた笑った。
それからパトリスたちは一階にある居間で過ごした。
パトリスはブラッドの勧めで仮眠をとった。
明けた空にまだ星が残る頃、屋敷の門の前に一台の馬車が停まったことで、平和な時間は幕を閉じた。
パトリスたちは窓を一つだけ開けて、門の外にある馬車を観察する。
「ホリングワース男爵、あの馬車はいかがしますか?」
「放っておきましょう。今日は師匠の言いつけ通り、なにがあっても屋敷から出ない方がいいです」
静かに見守る時間は長く感じられた。時計の針がコチコチと動く音が、やけに大きく感じられる。
やがて馬車の扉が開き、中から人が出てきた。
パトリスはその人物を見て、きょとんと首を傾げる。
「旦那様がどうしてこんな時間に?」
「いや、あれは師匠じゃないよ。姿変えの魔法で変装している偽物だ」
ブラッドにそう言われても、パトリスには偽物だとわからない。
容姿も服装も全く同じなのだ。
しかしアンブローズのもとで長年過ごしてきたブラッドの目には全く以て別人に映っていた。
たしかに表情も歩き方もほとんど同じだが、同じに見えるように似せているのであって、本人ではないとわかる。
上手く擬態した何者かに過ぎないのだ。
「ブラッド、いるんだろう? 門を開けてくれないか?」
男はブラッドの方に顔を向けると。アンブローズと同じ声でブラッドを呼ぶ。
ブラッドたちが黙ってその様子を眺めていると、男は更に言葉を続けた。
「昨夜この屋敷から強い魔力を感じ取ったのだが、なにか知っているかい?」
「気のせいでしょう。昨夜は特に何も起こりませんでしたよ」
「そんなはずはない。確かにこの場所から発した魔力だった。さあ、門を開けて入れてくれ。調べさせてくれないか?」
「なぜですか?」
「なぜって……可愛い弟子の屋敷で起こったことは調べておきたいだろう?」
ブラッドは男の言葉に笑った。
「それでも無理ですよ。だって、師匠が言ったではありませんか。誰が来ても出てはいけない。たとえ、その相手が私を名乗っていても、と」
「……ああ、なるほど。そう言っていたのか。オルブライト侯爵め。つくづく用心深くて目障りな男だ」
男はアンブローズの顔で舌打ちすると、門に手を伸ばす。すると庭の草木が急激に成長し、門に絡みついて固定してしまう。
「ええい、煩わしい! お前たちも出て来い!」
男が叫ぶと、馬車の中から従者らしい服装の男が二人出てくる。
門が開かないとわかるや否や、二人は魔法で空を飛ぶ。するとブラッドが待ち構えていましたと言わんばかりに魔法の呪文を詠唱し、二人の動きを止めた。
男たちはあっという間に捕らえられ、庭の木に括りつけられる。
それから日が昇るまで何度かトレヴァーの手下が襲来したが、全てブラッドとシレンスの手によって捕らえられた。
やがて朝日が昇ると、ブラッドの同僚たちが現れて犯人たちを連行する。
彼らと入れ違いで、オルブライト侯爵家の馬車がやってきた。
馬車から出てきたのは、アンブローズとレイチェルだ。
その間パトリスは、二人のために夜食やお茶を用意した。
「私も二人のように魔法が使えるのよね?」
屋敷中に魔法をかけ終わったブラッドに、パトリスが躊躇いがちに問う。
「うん、もう使えるよ。だけどしばらくはコントロールできるように練習した方がいいから、一緒に練習しようね」
「じゃあ私、諦めなくていいのね」
パトリスはうっすらと目に涙を浮かべて喜ぶ。
「諦めるって、なにを?」
「ブラッドを好きでいること」
「えっ、絶対に諦めないでね?! もしもパトリスが諦めようとしたら、全力で追いかけて止めるから」
ブラッドが真面目腐った顔でそう宣言すると、二人は顔を見合わせた笑った。
それからパトリスたちは一階にある居間で過ごした。
パトリスはブラッドの勧めで仮眠をとった。
明けた空にまだ星が残る頃、屋敷の門の前に一台の馬車が停まったことで、平和な時間は幕を閉じた。
パトリスたちは窓を一つだけ開けて、門の外にある馬車を観察する。
「ホリングワース男爵、あの馬車はいかがしますか?」
「放っておきましょう。今日は師匠の言いつけ通り、なにがあっても屋敷から出ない方がいいです」
静かに見守る時間は長く感じられた。時計の針がコチコチと動く音が、やけに大きく感じられる。
やがて馬車の扉が開き、中から人が出てきた。
パトリスはその人物を見て、きょとんと首を傾げる。
「旦那様がどうしてこんな時間に?」
「いや、あれは師匠じゃないよ。姿変えの魔法で変装している偽物だ」
ブラッドにそう言われても、パトリスには偽物だとわからない。
容姿も服装も全く同じなのだ。
しかしアンブローズのもとで長年過ごしてきたブラッドの目には全く以て別人に映っていた。
たしかに表情も歩き方もほとんど同じだが、同じに見えるように似せているのであって、本人ではないとわかる。
上手く擬態した何者かに過ぎないのだ。
「ブラッド、いるんだろう? 門を開けてくれないか?」
男はブラッドの方に顔を向けると。アンブローズと同じ声でブラッドを呼ぶ。
ブラッドたちが黙ってその様子を眺めていると、男は更に言葉を続けた。
「昨夜この屋敷から強い魔力を感じ取ったのだが、なにか知っているかい?」
「気のせいでしょう。昨夜は特に何も起こりませんでしたよ」
「そんなはずはない。確かにこの場所から発した魔力だった。さあ、門を開けて入れてくれ。調べさせてくれないか?」
「なぜですか?」
「なぜって……可愛い弟子の屋敷で起こったことは調べておきたいだろう?」
ブラッドは男の言葉に笑った。
「それでも無理ですよ。だって、師匠が言ったではありませんか。誰が来ても出てはいけない。たとえ、その相手が私を名乗っていても、と」
「……ああ、なるほど。そう言っていたのか。オルブライト侯爵め。つくづく用心深くて目障りな男だ」
男はアンブローズの顔で舌打ちすると、門に手を伸ばす。すると庭の草木が急激に成長し、門に絡みついて固定してしまう。
「ええい、煩わしい! お前たちも出て来い!」
男が叫ぶと、馬車の中から従者らしい服装の男が二人出てくる。
門が開かないとわかるや否や、二人は魔法で空を飛ぶ。するとブラッドが待ち構えていましたと言わんばかりに魔法の呪文を詠唱し、二人の動きを止めた。
男たちはあっという間に捕らえられ、庭の木に括りつけられる。
それから日が昇るまで何度かトレヴァーの手下が襲来したが、全てブラッドとシレンスの手によって捕らえられた。
やがて朝日が昇ると、ブラッドの同僚たちが現れて犯人たちを連行する。
彼らと入れ違いで、オルブライト侯爵家の馬車がやってきた。
馬車から出てきたのは、アンブローズとレイチェルだ。