夏に願いを
「それに私ね、ちょっと前までは朝ってこんな気持ちだったの。でも転校が決まってからは、あと何日朝が来たら転校なんだ、みたいに考えちゃって、余計にこの曲が難しくなっちゃった」
「あ、わかる。僕も毎朝が終わりの始まりみたいだから、こんなテンションだとちょっと」
「あはは、カナデくんの朝ってそんな絶望的な朝なんだ」
「うん。あ、でも」

言いかけて、慌てて続きの言葉を喉の奥に押し込んだ。学校に来れば叶居さんがいるから、なんて、言えるもんか。

たくさん喋る叶居さんといると、うっかり僕も口数がいつもより多くなって、だけど会話に慣れていない僕は心の声と実際に出して大丈夫な声を選ぶのを自然にやってのけることが難しい。だからなるべく相槌に留めるようにと、今いちど頭の中で言い聞かせる。

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