夏に願いを
4
叶居さんが引っ越す八月。
あの日の気まずい気持ちのまま、吹奏楽部の県大会の日がきてしまった。会うのも行かないのも、どっちも気まずい。
行くか行くまいか迷ったあげく、誰にも会わないようにギリギリに行って叶居さんにも声を掛けないで帰ることにした。

天気予報では曇りのち雨。このところのカンカン照りよりはマシかと思って家を出たものの、湿度が高くて殺人的にうざったい暑さが体にまとわりついてきた。
あまり気乗りのしない外出な上、こんなサウナ状態。何かの罰ゲームなのかなとさえ思いたくなる。
ローカル線のホームに降りてしばらく待っていたら、蜃気楼のように視界を揺らす熱気の向こうから、目的地へ向かう電車が僕を迎えにきた。あれに乗ればきっとエアコンが効いているはず……そう思った瞬間、気持ちだけで体感温度が下がった気がした。
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