夏に願いを
ステージからこっちが見えないように、後ろの席に座った。どの道、前のほうは参加している他校の生徒たちの席だ。ステージは明るく照らされていて、遠くからでも意外と近く感じた。部員たちが続々と楽器を携えてステージに現れ、大きなコントラバスを抱えて叶居さんも位置についた。

叶居さんの姿を確認した途端に体温がぐんと上昇する。

全員が姿勢を正したところで顧問の先生が指揮棒を持った腕を上げた。空気が張り詰めて、僕まで指揮棒の先に集中して緊張する。課題曲は前に一緒に動画を見た『煌めきの朝』だ。

指揮棒が降り下ろされた瞬間、大きな音が放たれた。舞台が空中に浮き上がったかと思うような、音楽室や体育館で聴くのとは全然違う音だった。
学校で聴いていた生音はもっと、金管楽器独特のピーピーばかりが大きくて、シロフォンやコンバスが負けていて、なんでラッパがこんなに多いんだろうと思っていたけれど、今は違う。全部の音がちょうど良く混ざって聴こえて、コンバスの音もしっかり聴こえる。
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