夏に願いを
耳にあてていた両手で頬を叩いて目を見開くと、視界はネット越しの相手コートだけだった。
ネットの向こう側に立っているのは、ラリーが長引くとアラが出てくる加藤先輩。長期戦に持ち込めれば勝ちが見えるはず。やるしかない。

加藤先輩のサービスから始まり、練習試合にもならないような緩いラリーが続く。僕に対して手加減をしている、というより捌く人数の多さに体力配分をしているようだった。僕とは体力を使わずに勝つ、そういう雰囲気だ。
僕は先輩が仕掛けてこない限りは、落さないことだけに集中することにした。次第にしびれを切らした先輩がペースを上げてきたので、僕もついて行く。

白い羽根がネットの上で何度も行き交う。似たような軌道が続くと集中力が切れそうになる。それは相手も同じはずで。加藤先輩は僕とこんなに長いラリーをしたことがないから、だんだんイラついてきたのが分かった。
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