夏に願いを
集中しろ。
いつもの緩いペースから外れて心拍が上がってくる。心地いいリズムが体の中心から全身に血液を送り出して、指先までどんどん熱くなっていく。すごく、気持ちがいい。

何往復目か、いよいよ決めにかかった先輩が大きく振りかぶって、鋭く風を切る音と共にシャトルが激速で向かってきた。今の加藤先輩は落とさない僕にイライラしていて、ラリーの集中力もなくなっている状態だから必ず返せる、目よりも耳がシャトルを捉えたと感じた。
脚が自然とステップを踏んで、腕も伸び、手ごたえと共にシャトルは一瞬でネットの向こう側に飛んだ。
僕が返すと思っていなかったのか先輩の反応がわずかに遅れ、白いシャトルがコートに落ちる。審判をしていた部長が僕の得点を告げた。

記憶の限り、相手の明らかなミスがない場面で僕が三年生から点を取ったのは、これが初めてだと思う。単純に嬉しかった。
得点して嬉しいなんて当然のことだけれど、心拍が上がっているからなのか何なのか、踊り出したいほどの喜びが心の奥のほうからせり上がってきた。
楽しい! バドミントン、すごく楽しい!

目があった部長が僕を見て微笑んだ。僕は小さく目だけで頷いて、試合を続けた。
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