夏に願いを
「こっちこっち!」

改札の向こうで叶居さんが両手を高く挙げて振っていた。ぴょんぴょんと小さく飛び跳ねながら手を振るその姿に、僕の心臓も大きく飛び跳ねた。
立ったり座ったり、乗車ホームを間違えたりしながらの六時間は長かったけれど、そんな苦労が一気に吹き飛ぶ。来てよかった。会えてよかった。

遠かったでしょ、と駆け寄る叶居さんには何事もなかったように笑ってみせた。

「あそうだ、ご飯もう食べた?」
「あ。食べてないや。乗り換えとか集中してたから忘れてた」
「わかる! 考え事したり集中してると食べるの忘れちゃうよね。お母さんにご飯呼ばれても返事して行かないとか」
「あるある。それでよく怒られる」
「だよね!」

そうか、疲れの理由は昼食を抜いていたせいかもしれない。

「でね、じゃーん!」

叶居さんが茶色い紙袋の口を開けると、香ばしい肉とソースの匂いが広がった。
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