英雄は時を駆ける~エリート将軍の年上花嫁~
「父は今のところ小康状態を保っているが、いつ容態が急変するか分からない。父に何かあった場合、僕が立たねばならなくなる」
「……」
「リリアーヌも知っているだろうけれど、王国の高位貴族には爵位継承のルールがある」

 それは簡単に言うと、「成人済みでかつ、後継者問題を解決できる者でなければ爵位を継承できない」というものだ。

 これは、王族と侯爵位以上の貴族に適用される。微妙に分かりにくいルールではあるが一番手っ取り早いのは、実子もしくは養子を持っているということだ。

 配偶者がおり、跡継ぎをもつ意志があるのならば襲爵できる。あるいは、自身の後継者として認知した子や養子を持っていても条件がこなせるため、独身でありながら襲爵したい者は信頼できる筋から養子を迎えることになる。

 デュノア公爵の子どもは、シャルル一人だけだ。よって基本的に彼が継承一位で、よそに嫁いだ公爵の姉の子――シャルルの従兄弟にあたる者たちが後に続く。

 デュノア公爵は厳格な人間だが、一人息子のシャルルには何だかんだ言って甘いそうだ――というのは、オーレリアンの情報だ。また公爵は実の姉との折り合いも悪いようで、自分の爵位を何が何でもシャルルに譲りたいと考えているという。

 だが、もし今公爵が病没すればどうなるか。シャルルは成人済みだが独身で、姉の子の一人は既婚者だという。
 この場合、シャルルと公爵の姉、姉の子三人による協議の末に話がまとまれば、姉の子が公爵位を継ぐことができてしまうのだ。

 シャルルが何を考えているのかはともかく、その可能性を潰したい公爵としては自分が急死する可能性が生じた以上、息子の結婚を急がせる必要がある。

 ――どくん、とリリアーヌの心臓が不安を訴える。

 なぜ、この場にリリアーヌが――リリアーヌだけが呼ばれたのか。
 とある可能性が、首をもたげていた。

「僕が確実に父上の跡を継ぐためには、早急に妻を迎える必要がある。さらに父上が健在の間に子を持ち爵位を継ぐことができれば、言うことはない」
「……」
「もう分かるな、家名なしのリリアーヌよ」

 公爵は、シャルルと同じ色の目でリリアーヌをじっと見た。

(待って)

「私としては不満も大きいが……おまえには、息子の伴侶になってもらう」
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