英雄は時を駆ける~エリート将軍の年上花嫁~
(言わないと)

 何か、返事を。
 言葉を、言わなければならない。

 頭の中を、四年前にシャルルと出会った日の映像がかすめる。
 まだ少年と言える年頃だったシャルルはあのときからまぶしくて、格好いいと思えて――あの日からずっと、リリアーヌは彼の青に惹かれていた。

 だが決して、それは恋愛的な意味ではない。自分はシャルルより五つも年上なのだから、自分は彼に助けられた身なのだからと、部下として、姉代わりとしての立場を貫いてきた。そのことに、何の不都合もなかった。

 それなのに。

「……シャルル様は、これでいいのですか」

 どうか、「だめだ」と言って。
 リリアーヌとはこれまでのような関係でありたいと思っている、と言って。

 そんな藁にもすがるような気持ちで問うたのに。

「……そうだ」

 現実は、残酷だった。

「僕が妻にしたいと思うのは、リリアーヌだけだ」

 これが、シャルルの答えだった。

 これまで静かに、だが着実に積み上げてきた美しく清廉なものたちは、一気に崩れてしまう。もう、「姉弟のように打ち解けた間柄の上官と部下」ではいられなくなる。

 ……否、そうでありたいと思っていたのは、リリアーヌだけだったのかもしれない。

「……かしこまりました」

 リリアーヌは、シャルルに仕えると決めている。だから。

「私、シャルル様と結婚します」

 そう答えるのが、部下の役目だった。
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