英雄は時を駆ける~エリート将軍の年上花嫁~
「あのね、シャルル。明日、わたくしの護衛をしてほしいの」
「明日? 確か姫様は明日、貴族の令息令嬢たちを招いてのガーデンパーティーに出席されるのですよね。そのときの護衛担当は、バレ将軍のところのリグローでは?」

 シャルルが問うと、王女は愛らしい顔をしかめた。

「リグローは嫌! あの人、わたくしのことを放っておいて侍女たちの方ばかり見ているもの! しかも、お胸の大きな侍女ばかり!」
「……それはそれで問題なので、バレ将軍に報告しますね。とはいえ、リグローが外れたとしてもそこに入るのはバレ将軍の麾下の別の者です」
「シャルルがいいの。シャルルが来て」
「しかし……」

 シャルルが優しく諭そうとしていると、王女は堪えきれなかったように声を上げた。

「だって……わたくし、知っているのよ! 明日のパーティーは、わたくしの未来のお婿さんを探すのが目的だって!」
「よいではないですか」
「わたくしにはシャルルがいるから、他の子どもなんてどうでもいいのよ!」

 ……おやおや、とリリアーヌたちの心の声が一致した。

(王女殿下は、シャルル様と結婚したいと本気でお思いなのね)

 背後で「申し訳ございません……」と口の動きだけで謝罪するお付きに微笑みかけ、シャルルが王女の前で片膝をついた。

「それは嬉しいことです、姫様。しかし前にも申しましたように、僕では姫様の夫は務まりません」
「そんなことないわ! お父様に言えばきっと、大丈夫!」
「姫様が成人なさる頃には、僕はもう三十過ぎのおじさんですよ。さすがに姫様とは釣り合いません」

 ……ここで「僕はもう、結婚しています」と言えば一撃だろうが、その最終兵器を持ち出すわけにはいかないので、シャルルは丁寧に断っていた。
 彼の背後でオーレリアンが何か言いたげな視線を向けてきたので、リリアーヌは苦笑だけを返しておいた。

「おじさんでもいいわ! シャルルなら、おじさんになっても絶対に格好いいもの!」
「姫様……」
「もういい、分かったわ。明日はリグローだろうと誰だろうと我慢してあげる。……ただし!」

 王女はシャルルにぴっと指を突きつけ、声高に宣言した。

「シャルルのお嫁さんになるのはわたくしなのだから、『誓いの髪飾り』はわたくしのために取っておきなさいよ!」
「……あー」
「では、ごきげんよう!」

 中途半端な声を出したシャルルに背を向け、王女はずかずかと去っていった。しきりに頭を下げて謝罪を繰り返すお付きを送り出し、オーレリアンがドアを閉める。
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