英雄は時を駆ける~エリート将軍の年上花嫁~
 ゆっくり瞬きするリリアーヌを見て、シャルルはしっとりと艶のある微笑を浮かべた。

「きっと、ずっと前から好きだったんだ。でも僕は若くて頑固で物分かりが悪くて、この気持ちが何なのか、どう表現すればいいのか分からなかった。ともすれば、僕が君に抱く感情は普遍的なもので、最悪オーレリアンも同じような感情を君に向けているのかもしれない、とも思ってた」
「……」
「でも、違うと分かった。僕は他の誰にもリリアーヌを譲りたくないし、手遅れになる前に手に入れたいと思った。そのときに父上の体調不良が重なっただけで……きっと僕はずっと前から。若い頃から、君のことだけを見ていたんだ」
「……」
「……リリアーヌ? 聞いているのかい?」

 あまりにも長い間リリアーヌが沈黙しているからか、シャルルが気遣わしげに問うてくる。
 彼の顔がぐっと近づき、唇がふれあいそうなほどの距離で青い目に見つめられたリリアーヌは――

「……ら」
「ら?」
「……シャルル様が……ご、ご乱心です……!」

 ひっくり返った声を上げて立ち上がり、じりじりとシャルルから距離を取り始めた。

 シャルルの「好きだよ」発言を聞いた瞬間にリリアーヌの頭の中が真っ白になって、今やっと再起動をかけられた……のだが。

(……そんなの、聞いていないわ!)

「シャルル様、どうか落ち着いてください!」
「いや、今落ち着くべきなのはどう見ても僕ではなくて、君だろう」
「いいえ、いいえ、きっとシャルル様は混乱されているのです! あの、私……失礼します!」
「えっ? お、おい、リリアーヌ!?」

 シャルルが止めるのにもかかわらずリリアーヌは寝室を飛び出し、わけも分からないまま階段を駆け下りた。

 ちょうど階下にはメイドたちがおり、彼女らは真っ青な顔で降りてきたリリアーヌを見てぎょっとしたようだ。

「奥様!?」
「あの、ちょっと、どこかで休ませて……」
「は、はい。こちらへ!」

 リリアーヌの必死の形相を見てメイドたちは動き始め、一人がリリアーヌの手を引いて空いている部屋に誘い、後の二人は「リリアーヌ!?」と後を追ってきたシャルルの前に立ち塞がって「シャルル様はお戻りください!」「奥様には、静かな場所で休んでいただきます!」と追い返していた。

「シャルル様……わたくしどもは、信じておりましたのに!」
「奥様には優しく優しく愛情を込めて接するようにと、お教え申し上げたでしょう!」
「違う、誤解だ! 僕は無体などしていない!」

 ……どうやらメイドたちに、「シャルルがリリアーヌに夜伽を強制しようとして、逃げられた」と考えられていたようだとリリアーヌが気づいたのは、メイドが用意してくれた部屋のベッドに倒れ込んで眠りにつき、目が覚めた翌朝のことだった。
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