英雄は時を駆ける~エリート将軍の年上花嫁~
「手作り弁当がほしいのなら、恋人に依頼したらどうでしょうか。ブラン伯爵令息にお弁当を作りたがる女の子なら、いくらでもいるでしょう?」
リリアーヌが真顔で茶化すと、一瞬でサンドイッチを平らげたオーレリアンは降参とばかりに両手を挙げた。
「おいおいひどいな、リリアーヌ。俺はそこまで節操なしじゃないし、おまえの手作りサンドイッチほど貴重なものはないよ」
「やめてください……」
リリアーヌはため息をついて、新しいサンドイッチを手に取った。
「あなたにあげるサンドイッチは、もうありません。あなたも早く昼食を取ってきてくださいな。シャルル様から任された仕事があるのでしょう」
「はいはい。……にしてもシャルルのやつ、いつまで休むんだろうな」
オーレリアンが気遣わしげに言うので、リリアーヌは黙ってしまった。
副官のオーレリアンと補佐官のリリアーヌの上官である、シャルル・レミ・デュノア将軍。
デュノア公爵家の跡取り息子で、十四歳のときに正騎士採用試験に一発合格、十六歳で士官となり、二年前には十八歳にして王国史上最年少の将軍の地位に就いたエリートである。
王国騎士団に所属する他の将軍はいくつもの小隊を抱えていたりするが、シャルルが普段からそばに置くのはオーレリアンとリリアーヌだけで、遠征など必要に応じて隊を編成するようにしている。本人曰く、「僕は、何十人もの部下を従えるのは得意ではない」とのことだ。
筋骨隆々とした頑強な男性、というにはほど遠い、少年の頃の面差しを濃く残している彼は、その線の細さや中性的な美貌、そして名門貴族の嫡男ということから、「お飾り将軍」とからかわれることもある。
王国騎士団には二十人ほどの将軍がおり、そのうちの半分ほどは「お飾り」だと言われている。高貴な生まれで見目がよい者たちは昇格試験で優遇されており、王族の外遊や会談、昼餐などの席に侍ってその場に花を添えるのが仕事である……とされている。
シャルルも異例の若さで昇進したこともあり、「お飾り」扱いされていると本人も自覚している。だが実際の彼は見た目に反して非常に肝が据わっており、頑固で口も達者ではない。
社交界に出向くのも好きではないようで、渋々夜会に出ると令嬢たちに囲まれるものの、「特に話すことはない」と言って立ち去ってしまうそうだ。
そんな扱いづらい上司であるが、リリアーヌもオーレリアンも彼のことを敬愛している。
リリアーヌは二十五歳、オーレリアンは二十七歳でいずれも二十歳のシャルルよりかなり年上だが、三人でいるときには立場や性別の間を越えて友人のような気軽な間柄でいられるのが、リリアーヌも心地いいと感じていた。
だがそんなシャルルはここしばらく、仕事を休んでいる。どうやら実家の公爵家から呼び出しがあったようで、朝早くに出勤してリリアーヌとオーレリアンにそれぞれの仕事を割り振ると、すぐに帰ってしまうのだ。
リリアーヌが真顔で茶化すと、一瞬でサンドイッチを平らげたオーレリアンは降参とばかりに両手を挙げた。
「おいおいひどいな、リリアーヌ。俺はそこまで節操なしじゃないし、おまえの手作りサンドイッチほど貴重なものはないよ」
「やめてください……」
リリアーヌはため息をついて、新しいサンドイッチを手に取った。
「あなたにあげるサンドイッチは、もうありません。あなたも早く昼食を取ってきてくださいな。シャルル様から任された仕事があるのでしょう」
「はいはい。……にしてもシャルルのやつ、いつまで休むんだろうな」
オーレリアンが気遣わしげに言うので、リリアーヌは黙ってしまった。
副官のオーレリアンと補佐官のリリアーヌの上官である、シャルル・レミ・デュノア将軍。
デュノア公爵家の跡取り息子で、十四歳のときに正騎士採用試験に一発合格、十六歳で士官となり、二年前には十八歳にして王国史上最年少の将軍の地位に就いたエリートである。
王国騎士団に所属する他の将軍はいくつもの小隊を抱えていたりするが、シャルルが普段からそばに置くのはオーレリアンとリリアーヌだけで、遠征など必要に応じて隊を編成するようにしている。本人曰く、「僕は、何十人もの部下を従えるのは得意ではない」とのことだ。
筋骨隆々とした頑強な男性、というにはほど遠い、少年の頃の面差しを濃く残している彼は、その線の細さや中性的な美貌、そして名門貴族の嫡男ということから、「お飾り将軍」とからかわれることもある。
王国騎士団には二十人ほどの将軍がおり、そのうちの半分ほどは「お飾り」だと言われている。高貴な生まれで見目がよい者たちは昇格試験で優遇されており、王族の外遊や会談、昼餐などの席に侍ってその場に花を添えるのが仕事である……とされている。
シャルルも異例の若さで昇進したこともあり、「お飾り」扱いされていると本人も自覚している。だが実際の彼は見た目に反して非常に肝が据わっており、頑固で口も達者ではない。
社交界に出向くのも好きではないようで、渋々夜会に出ると令嬢たちに囲まれるものの、「特に話すことはない」と言って立ち去ってしまうそうだ。
そんな扱いづらい上司であるが、リリアーヌもオーレリアンも彼のことを敬愛している。
リリアーヌは二十五歳、オーレリアンは二十七歳でいずれも二十歳のシャルルよりかなり年上だが、三人でいるときには立場や性別の間を越えて友人のような気軽な間柄でいられるのが、リリアーヌも心地いいと感じていた。
だがそんなシャルルはここしばらく、仕事を休んでいる。どうやら実家の公爵家から呼び出しがあったようで、朝早くに出勤してリリアーヌとオーレリアンにそれぞれの仕事を割り振ると、すぐに帰ってしまうのだ。