英雄は時を駆ける~エリート将軍の年上花嫁~
 どうやらシャルルは午前中、他の将軍に呼ばれているようで執務室を空けていることが多く、昼休憩になっても戻ってこなかった。
 これ幸いということでリリアーヌとオーレリアンは、外で買った昼食を手に続き部屋にこもることにした。

「……で? 麗しの将軍閣下と結婚ほやほやの奥様の悩みとは?」
「下品な聞き方をしないでください。……ただ、あなたなら知っているかもしれないと思って」

 大きなサンドイッチに豪快にかぶりつくオーレリアンの向かいで、フォークの先でミートボールをつつきながらリリアーヌは少し言葉に躊躇う。

「……その、もしかしてあなたは、シャルル様が私のことを好きだと知っていた?」
「え?」
「えっ?」
「……ああ、そうか。ついに言ったのか、あいつ」

 最初、オーレリアンも知らなかったのだと思いきやそんなことを言うので、やはりそうだったのかとリリアーヌは肩を落とした。

「昨夜、そういうことを言われて驚いてしまって……」
「ほうほう。それで、やっと自分の恋を告げられたおぼっちゃんと熱い夜を……過ごせたって感じには見えないな」

 オーレリアンの言うとおりだがあけすけに言われるのは癪なのでリリアーヌがそっぽを向くと、彼は二つ目のサンドイッチに取りかかりながら感慨深げに言った。

「だがまあ、あいつが言いたいことを言えたのならそれでいいだろう。言えないまま手遅れになるよりもずっと、な」
「……あの方は、いつから――」
「おっと、それは俺の口からじゃなくて本人から聞くべきじゃないか?」

 オーレリアンの言うことも、もっともだ。
 そもそもシャルルの性格を考えると、勇気を出してリリアーヌに告白したのにその子細をオーレリアンから聞かされるなんて、気分がいいことではないだろう。

「……それで、部下としての役目のつもりで引き受けた結婚なのに、いざシャルルから好意を向けられると妙に恥ずかしくなってきた、ってところか?」
「あなたの勘のいいところ、普段は腹立たしいけれど今はとても心強いです」
「麗しいご婦人にお褒めいただけて光栄ですよ、っと。……話はだいたい分かったが、それで? リリアーヌはどうなんだ?」
「私?」
「おまえは、シャルルのことが好きなのか?」

 サンドイッチ片手に真面目な顔で問うてくるオーレリアンの顔が、一瞬ぶれたかと思った。

『なー、おまえって、シャルルのことが好きなんか?』

 数日前にも、同じようにオーレリアンに聞かれた。あのときの自分は、なんと答えたのだったか。……いや、何も答えずに適当に流したような気もする。

(私にとってのシャルル様は……)

 恩人でもある、上官だ。
 彼がいなかったら、リリアーヌは望まぬ結婚を強いられていた。彼のおかげで、毎日補佐官として生き生きと働けている。

 リリアーヌがシャルルに向ける感情が「好き」なのか「嫌い」なのかと問われれば当然、「好き」だ。だがその「好き」は、シャルルが自分に向ける「好き」とはまったく違う。
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